2020年6月 3日 発行

連載コラム

第203号    ある晴れた日に    岩城生産システム研究所  岩城 康智


 花の五月も過ぎ、六月になるとコロナのパニックも乗り越えたように思います。
イングランドは先週から警戒レベルを下げ、通常の外出ができるようになりました。結局2ヶ月に渡って外出禁止(ロックダウン)が行われた訳です。
ちまたでは経済への影響が取り沙汰されていますが、、、それはそうでしょう、働いてないのだから、生産も止まってGDPが落ちるのは当たり前と言えるのです。とは言っても、以前のリーマンショックに比べると不思議と社会は落ち着いているように見えます(リーマンショックの時はロンドンなどで、暴動が起きたのはまだ記憶にあると思います)
 それは、おそらくロックダウンにあっても完全に生活が止まった訳でなく、日常的に必要な部分(衣食住)においては、たとえ不便な点はあったにしても、なんとかやって行けたというのが一点。
また、かなりの部分のホワイトカラーは自宅勤務で作業をすることで仕事自体は決して止まることはなかった。
 さらにもっとも大きく異なるのは、経済活動は停止しているものの、このパンデミックが終わったら一刻も早く通常の生活に戻ろうと思う気持ちがあったのが大きかったと思います。
 また、病院等のスタッフが自らの防護服も十分にないまま、献身的に尽くした姿勢はロックダウン中の国民のモラルを上げた大きな要因と言えるでしょう。 その一例としてあげるのは、多分日本でも報道されていると思いますが。退役軍人のトム・モアさんが自身の100歳の誕生日に何か人のためになることをしたいと始めたチャリティー*で、病院で働いているスタッフへのチャリティーとして目標は1000ポンド(14万円)だったのが最終的には3279万ポンド(46億円)に達したのはその表れなのかもしれません。
 もう一つの例が2ヶ月前のロックダウンに際しては女王陛下がテレビにて国民に話されたのですが、" We'll Meet Again"と締めくくられたのが日本でも報道されたと思います。これは「みなさんまた会いましょう」と言う訳ですが、日本語にするとあまりにも本意が伝わらないので、ちょっと説明するとします。これは1939年にベラ・リンの歌った有名な(少なくとも地元では!)歌で、それからの大戦中に英国で唄い続けられたのですが、もちろん、ご存知のように結果的にはドイツに対して勝つことができたものの、その実の英国軍は大変苦戦した訳です、行先の見えない戦況の、いつ死んでしまうかもしれないような中で、それでもいつか昔のような晴れた日に青空の下で会いましょうという歌で、もちろん不幸にも二度と戻れなかった兵士もいた訳ですね。それでも今は前を向いて恐れず戦おうとした訳です。こういう背景を知った上でこの言葉の重さ、きたる試練に国民全体で立ち向かおうとする覚悟というものがそこにあったと思います。このような時に元大英帝国の底力はまだまだ残っているのだなと感じました。
 一方日本のニュースも見ておりますが、やたらと細かいことが気になってそれを報道されるのでしょうが、もっとメディアの使命として大事なことがあると思うのです。このような視点から見ると勉強不足でまだまだ民度が低いなあと残念です、将来に期待したいと思います。
 何れにしても、少なくとも北半球マイナス(アメリカとインド)プラス(オーストラリアとニュージーランド)は、これから急速に通常の生活に戻らなければなりません。今年の夏は暑くなりそうですが、それに負けないようにネジ巻いてゆきましょう。

追記:チャリティーは日本語のボランティアと同意語です。

以上