2019年11月 11 日 発行

連載コラム

第198号ヨーロッパから見た日本の物づくり @       岩城生産システム研究所  岩城 康智


 私は現在英国のエジンバラ近郊に在住しておりますが、私が渡英したのは1986年で、当初は某食品会社の、スコットランド工場を建設し、立ち上げたのち、その後約13年に亘って現地人とともにものづくりをしてきました。
 その後、2000年よりトヨタのティア1のプレス板金会社の現地合弁企業で働いたのち、2005年にトヨタイギリス工場のそばに、トヨタと直接に順だて供給できる工場の建設、及び社長として仕事をさせていただきました。トヨタティア1としては唯一無二のオフサイトサテライト+順だて生産というだけではなく、スケールも工場のみで3万平米、1日出荷便だけで50便プラス入庫30便(全て大型トレーラー)というもので、これを徹底した経営のリーン化を図り、間接要員は社長含め35名で、保全・技術・営業・品質管理・物流もこなすことができたのです。なお、立ち上げ期間が短かった事もあり、トヨタとの順だて情報管理システムは自前でゼロから作らねばならず、大変ではあったのですが、後で見ると自分の思った通りの使いやすいシステムができたと思います。(この生産管理システムはDOVE SYSTEMと命名されて、のちに英国の物流管理ITで最優秀賞を頂いた事も付け加えておきます。)
 そして2007年より岩城生産システム研究所にて、主に海外を中心に支援をさせていただきました。したがってかれこれ30年以上海外にて、物づくりをしてきたわけです。

欧米における物づくりの現実

 この約30年間に何が変わったかというと、欧米においての物作りという物がほぼほぼ全滅してしまったことです。これは2000年頃から始まったのですが、自分たちで作るには、人も雇わなければならないし、工場建設から設備とお金がかかるわけですが、それだけでなく投資してからそれを回収するまでに時間がかかるわけです。
投資家からしては早く利益を刈り取りたいので、東欧中国で作って買い物した方が楽なのは事実です。
 このことを彼らは合理的(近代的)なビジネスモデル。グローバル化とか呼んだわけです。その結果、今まで積み上げてきた工場などは消滅してディストリビューションセンターに変わり。せっかく育てた技能者は消え去ってしまい、今では自力で生産することは無理になってしまった状態です。まあ仮にしたところでコストは高いし品質は悪いで惨憺たる状態です。
 よく生産性(金額)は日本が低いなんて言われますが、ここ30年間でヨーロッパの物価は昔に比べ約4倍になったと言ってもいいと思います。実際は円高になっておりますので、それを差し引いても3倍にはなっているはずです。つまり"賃金を上げないと生きて行けない"のが実情。したがって、残念なことには今かろうじて生き残っている会社もこのままでいるとやがて、消え去ってゆく運命にあるわけです。

 問題はそれに対して戦って行こうとする経営者があまりにも少ないことがあります。みんな指をくわえて見ている。つまり諦めちゃっている。 仮に頑張っているとしても、例えばトランプ氏はある意味で既存の問題に対して彼なりの理論で頑張っている。
そして、その結果、確かに雇用は生まれているのだけれど事の本質は変わっていないので、よくならない。それは経済を支えて行くべき根っこにある製造業がすでに枯れているから。実際アメリカにおいての技術はほとんど枯渇しており今から製造業を立ち直させようとしても自力では無理。これはヨーロッパも同様で、正直お手上げ状態です。(中国依存にした自業自得なのですが)  

欧米におけるものづくりの現実
    ・ 製造業の競争力が低下
    ・ 経営者のものづくりに対する知識不足
    ・ 労働者全般の働くことに対する目的意識の変化 
    ・ 自分たちで作るより出来たものを購入する
    ・ 品質より価格
    ・ インフレに伴う生産コストの増加
    ・ 貧富の格差の増大による治安の悪化

 先日、テレビにて地球温暖化でアルプスの氷河が無くなってしまうというので皆でお葬式をしておりましたが、実際葬式したところで気休めにもならないのだけどまあ、イメージとしてはそんな感じです。

(次号に続く)