2019年8月 6 日 発行

連載コラム

第195号「自分の城は自分で守れ」 岩城生産システム研究所佐藤 裕孝

 この言葉はトヨタ自動車元社長、石田退三社長の名言ですが、私が師事した岩城宏一先生も良く仰っていました。 
岩城先生が指導している生産革新の現場では、たくさんのやらない言い訳(=できない理由)が飛び出しました。 
「当社は製造品種が多く、その方法は合いません。」 「以前やってみましたが、うまくいきませんでした。」 「そう言われても、これが限界です。」 等々、枚挙にいとまがありません。
 先生は、「そうか、できないか・・・・・、  これをやらないと会社はどうなる? 君たちは自分の城を自分で守ろうという気にはならないのか? 自分の城は自分で守れだ。」
と、こんな感じです。
 改善をすれば、幾ばくかのコストダウンを達成して会社の損益にも少しは寄与する、という程度には思っていましたが、それにしても「自分の城を守る」とは大げさです。
しかし、岩城先生のトヨタ生産方式(以下TPS)は別格でした。 岩城先生の指導現場を自社の現場にアレンジして流れをつくると、かつては想像できなかったレベルの品質(Q)、コストダウン(C)、リードタイム短縮(D)が、劇的な数値となって現われ、 結果として生産性が向上し、損益分岐点が大きく下がったのです。
「これならライバルに勝てる、生き残れる、 自分の城は自分で守るは本当だ!」 と思えるようになりました。
 もっとも、よく現場を見ている人は、この数値が出る前に現場で何かが起こっていることにいち早く気づくのです。 特に現場に一番近いリーダーは、自分達の仕事が整然と行なわれるようになり、今まで苦労していた一日の生産計画も平気で毎日達成できるようになっているのです。 生産革新活動に反対していた守旧派の面々、実はこの人たちの中には問題意識を持っている人たちが多いのです。気が付いたら、メンバーを激励し、やらない言い訳には叱咤し、城を築く側になっているではありませんか。
 現役時代は円高で、日本の製造工場にとっては高コスト構造(=高プライス)だけが唯一で最大の弱点でした。
 (製造業としては、あといくつか弱点がありましたが、これはいつかの機会に)
ですから、TPSにより生産性が上がるにつれて、大胆にも「日本国を守れるのでは?」と感じたことを思い出しますし、円レートが修正されライバルの賃金が上昇した今はさらにその気持ちは強くなっています。
 実は岩城先生も仰っていたのです。「TPSをやると、なぜか日本を守る気になるんだね」

(次号に続く)