発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成21年7月15日発行 第094号
 ― 目 次 ― 

  
 「私の理解したトヨタ生産方式 その3」 NECセミコンダクターズ九州・山口 佐藤 光信 様



 「私の理解したトヨタ生産方式 その3」

NECセミコンダクターズ九州・山口㈱
熊本錦工場 佐藤 光信 様


1.3回目の投稿
 3回目のコラム投稿になる。前回までの2回(29号45号)は岩城先生の指導を受けている中での投稿だったが、今回は昨年1月を最後に、指導を受けなくなって初めての投稿である。もう一つ、NECセミコンパッケージ・ソリューションズ㈱熊本工場という半導体組立会社の一工場から、NECセミコンダクターズ九州・山口㈱熊本錦工場と、拡散工場と組立工場が一体化され、規模の大きな会社に変って初めての投稿であることが前回までとは違う。しかし、物造りを担当する我々に取っては関係ない変化と言える(と岩城先生は言われる)だろう。
 アメリカ発のサブプライムローン問題に端を発した自動車の販売不振、我々もこの波をもろにかぶる形で昨年秋から車載用半導体を中心に生産激減を強いられ、24時間稼動体制の見直しや配置人員の大幅削減等の対応に苦慮してきた。一転、今期に入って環境対応車への受注に火が点き、当工場の生産も急ブレーキからアクセルに踏み変える変動即応力が求められている。短期間にしかも過去に無い大きな変化を経験した、これが今まで2回の投稿時との大きな違いと言える。


2.自動車の販売不振をもろにかぶる中での改善活動
 先に述べた激変の中に有っても我々は、後引き生産の確立をめざして改善のPDCAを回してきた。具体的には、かんばんで物を流すことに徹底してこだわり、繰返し生産数極少(1日当たりの入庫枚数2枚)でもかんばん化を維持、また数種類の製品を1かんばんにまとめる工夫をしながら、かんばんによる後引き生産を続けている。これと平行し、そのレベルを向上させる目的で毎月“みずすまし指導会”と称する物流しの改善支援と進捗確認の指導会を継続。《小さく・速く物を流す》阻害要因の一つである生産設備の不具合改善のトレースを行う“保全改善指導会”を継続しながら日々改善に努めている。
 これらの活動に加えて新たに、物流しの改革を進めてきた中の反省点としていた〔物造りに直接携わる人達への理解不足〕を補うため、自前の教育資料を作り上げて“底上げ教育”を推進してきた。
 そしてこれらの成果が生産急増の今、正に活かされようとしている。


3.岩城先生の指導方針に沿った改善活動
 岩城先生の指導会を通じて大まかな物流しの体制ができて、いよいよ仕上げの段階に入った時から自歩を余儀なくされた。先生の指導スタンスと考え方(物造りの原点は現場)を踏襲しながら愚直に改善活動を進めている。実際に現場を観ること、みんなと話をしながら改善を進めること、これ以上に楽しい仕事は無い。(・・・と思っているのは私だけ??)
 以下に、私が担当する“みずすまし指導会”を通じた改善事例を紹介するが、生産のどん底を経験した中から考え付いた改善であり、世に言う「ピンチをチャンスに!」できたと思っている。

生産数激減下でのみずすまし指導会
 我々が追求する《小さく・速く物を流す》ためには平準化流しを前提として、みずすましのタクト短縮と速度を上げるべきとの考えに立ち、ここへの直接的改善はもとより、その阻害要因や課題を当事者と関係者が現場で一体となって闊達且つ、和気藹々と最終目的に向かって挑戦を続けている。
 先生の指導を受けなくなって以降、みずすまし台車の画期的な改善をはじめ、生産激減の中で気づいた作業の平準化と標準化促進による配置人員の適正化、更には異動者の垂直立上げに貢献する情報(計画)の見える化促進など、先生に教えて頂いたことを真に理解?する絶好の機会になった。

1)減産体制の中で気づいた適正配置人数の決め方
 多台持ち化や多機種持ち化が進んだ工程では生産数量減に比例して配置人員を減らすことが難しく、生産性の悪化を招くのが常だった。作業者各人に大きな余裕を与えるだけで、配置人数は段階的にしか外せないのが現実であり、少なくとも私の考え方もそうであった。
 しかし、未曾有の減産体制(数量激減とその期間が不明)下でこのような言い訳が許されるはずもなく、〔余裕を余剰に変換〕できないか知恵を絞って考えた。そして思い付いたのが、“ジュリアナ生産方式”と“回遊生産方式”である。ノウハウの関係上、言葉のニュアンスから内容を想像してもらうしかないが、各工程の特徴から本二方式のいずれかを選択し、それを全工程に展開することで大きな成果を得た。増産に転じた現在も少ない人数での対応を可能としている。先生に教えて頂いた作業の平準化と標準化の半導体組立形バージョンだと(勝手に)思っている。

2)少量多品種ラインでもかんばん引きは可能
 当工場は主流のパッケージ群の他、形状が全く異なる少量多品種の製品群の生産も担当している。これも主流のパッケージ群に習ってかんばん引き取り生産をしていたが、途中に能力の大きな設備(以降ネック設備と称す)1台が数工程あるが故に、その前に引き溜めし、段取り替えしながら流す方式としていた。言い換えれば、物にかんばんを付けて流すだけの見せ掛けのかんばん引取り方式でしかなかった。主流パッケージの物流し模索にやっきで、こちらまで観る余裕がなかったが、減産になったので観る余裕ができた、これが言い訳??・・・・。
 正しい方法かは分らないが現状を肯定し、前店と後店の間はネック設備の都合を考慮しながら、後店から前店にかんばんを振り出す“ネック設備の都合を考えた予約流し方式”を考案した。要するに、1日がかりで後工程の要求を満足する方法である。この組み合わせ数ユニットを経て投入までさかのぼっていく、これが結構上手く行っている。これって王道かな、それとも邪道かな?他でも使えそうだから王道だろう。

3)多くの人を異動する中で気づいた“情報(計画)の見える化”の重要性
 当工場も例外に漏れず、請負会社に生産依頼していた工程の内部取込み化を急いだ。これに伴い該当工程に多くの社員を異動させなければならなくなり、結果として若葉マークを付けた多くの人達が作業する工程を生むことになった。
 逆にこれが幸いした。私が考える〔生産革新ステップ活動〕の最終7STEPは、生産現場の自律化を確実なものとする(かんばん流しを支援する)ための“情報の見える化”と定義しているが、これを発展させて“計画を見える化”すれば請負社員各人のノウハウに委ねていたもの流しから脱却でき、新人を垂直立上げできることに気づいた。具体的には、物の流れを計画するツールを開発して、それを全員に見える化する。まず若葉マークの中から適任者を選び出して物の流れと思考のアルゴリズムを教える。その人が本ツールを使って、明日の物流しを計画し見える化することで、若葉マークを含めた多勢は単一工程の作業さえできれば比較的短時間で一工数として貢献できる仕組み化を構築中である。やがてこれが完全に機能を発揮しだす。この改善活動から、若葉マークの人達中心の配置工程であっても余り時間をかけずに戦える見込みがついた。これもかんばんによる後引き生産の中から考え付いた方法であり、改めてかんばんの効用を思い知った。
 これらと平行して従来から取り組んでいた、作業方法を見える化することで新人や異動者の垂直立上げと作業の標準化に貢献する“映像仕様書”作成にも拍車をかけている。

4)かんばんによる物流しの理解者を増やした有意義な教育
 トヨタ生産方式と名のつく図書は世の中に溢れており、我々もこれらから知識を得ているが、現場で実際の物流しに携わっている人達には実務に即したマニュアルを用いた教育でなければ役に立ち難い。生産激減の今こそ教育資料を作ろう、それを用いて実務者教育をすれば、管理・監督者と実務者が一体となった改善活動に更にステップアップできるチャンスだと思い立った。
 教育資料は我が家の主任6人が章毎に分担して作ってくれた。生産革新活動を開始して5年間、試行錯誤しながら作り上げてきた熊本錦工場独自の物流し方法とノウハウをしっかりまとめ上げてくれた。実際の教育も41回に分けて輪講方式で行ってくれた。教育を受ける人達も机上の空論でなく、毎日実践している作業の目的や手段を理解できる内容であるため、先生と生徒双方向の意見が飛び交う真剣な教育の場になった。真剣な教育であったことを証明する先生と生徒のやりとりの一コマを紹介。生徒曰く、「もっと早くこういう教育をして欲しかった。私達はこういうのを待っていたんですよ!」。先生曰く、「ごめん、早くしなければと思ってはいたんだけど、やり方が日々変るから教育資料としてまとめようが無かったんだよ。」
 教育とは〔相手が欲した時に与えるべきもの〕との再認識と同時に、監督者クラスが確実に育っていることを実感し、既に後戻りしない所まできたとの嬉しい確信を持つことができた。
    

4.おわりに
 生産環境が、或いは我々の置かれる事業環境がどのように変ろうと、物造りを担当する工場のスタンスやお客様思考は普遍のはずである。その軸を振らすことなく、トヨタ生産方式最前線の半導体組立工場をめざすことで生き残りに活路を見出していきたい。
 そして近い将来、岩城先生に『熊本錦工場はここまで成長しました。どうか観てください。』と胸を張って言えるよう、真に自律(立)化した生産ライン実現に向け工場一丸となり前進を続ける。微力ながら私も残りの会社人生を、本ラインの実現と同時に、物流し改革を永続的に続けることのできる人の育成に、全力で当る所存である。


(続き 第130号


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