発行者 岩城生産システム研究所

編集者 IPSインターナショナル
   平成19年07月01日発行 第045号
 ― 目 次 ― 

   「わたしの理解したトヨタ生産方式 その2」 NECセミコンパッケージ・ソリューションズ 佐藤 光信 様

  
 「コンサルタントのひとりごと 〜全員参加による経営活動の薦め25」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一




 「私の理解したトヨタ生産方式 その2」

NECセミコンパッケージ・ソリューションズ梶@熊本工場 佐藤 光信 様


1.2回目の投稿

 コラム2回目の投稿である。前回は昨年11月の第29号に「トヨタ生産方式をめざすには私の考える6 Stepで」というような提案をしたが、実は岩城先生に仰々しい投稿タイトルまで決められ、仕方なく考えを整理して投稿した小心者の佐藤である。その小心者は前回の投稿で6 Stepの山を登りきってから改めて投稿したいと書いたのだが、またしても先生から「投稿せよ」というご下命である。 山登りの途中で何を書けばいいのか悩んだが、今回は《物を小さく・速く流し“平準化生産を実現する”という目標を見失わなければ改善は永遠である》ということについて、我々の活動を事例にして述べることにする。 お願い)読む前にコラム29号を見て頂ければ幸いである。


2.小さく・速く流すとは

 そもそも平準化流しは物を動かす1サイクルが短く、ブレの程度が抑えられていることが前提である。だからロットサイズはなるべく小さく、みずすましの引き取りタクトに同期(+α)して加工が済むサイズ位が望ましい。また、引き取り情報が速やかに上流に伝わることも前提条件になる。本来なら、みずすましのタクト時間に(ストア数+1)を乗じた時間で出荷から投入工程まで伝わるはずである。例えば、みずすましタクトが30分で生産工程内にストアが5つある場合、情報は3時間で伝わるはずだが実際にはそう上手くいかない。加工能力の違う設備を使い、且つ製品により生産フローが違う、或いは同数のロットでも加工時間が違う、しかも少量多品種を生産する半導体組立工場では、『平準化生産』という目標は遠くて高い存在であり、その実現手段として“小さく・速く流す”改善を積み重ねなければならないと理解している。


3.先生の指導内容と我々の改善活動との関係

 昨年11月に投稿した以降、2回の指導を受けた。従来のように(今思えば)恥ずかしくなるような指導内容は減ったが、まだまだ平準化生産への道のりは遠い。我々が先生の指導内容を現実にどう反映させているか最近の事例を使って紹介する。結論らしきを先に述べると、改善すべき不具合は山積しており改善は尽きない。しかも改善したと思った時には新しい不具合が生まれ、改善は永遠である。生産現場を観ること、みんなと話しながら改善を進めること、これまた楽しである。

3−1.最小単位で流しなさい!

 我々は、この指導を「小さく流す改善」と置き換えて、1ロットを分割して流すことに注力している。
我々の物流しの中ではロットという概念が強く、ロットに依存した点検や交換などの指定が多いため、苦しみながらロットサイズを1/4にまで小さくしてきた。これにより、後工程でのみずすましの空振りを減らすことに成功したが、それでも前工程の金線を一本ずつ配線するボンディング工程では時間単位でのロット払い出しとなるため、先生の言われる“ロットくずし”と“ロットもどし”の技法を用いて、1ロットを1/3に分割して流す方法に挑戦し、その流し方を確立しつつある。当然、工程内の標準手持ち量が減ることでリードタイムの短縮も進む。 注)空振り:みずすましがタクト巡回時に引き取る物が無いことを言う。

3−2.素人にも分かるラインにしなさい!

@ 我々は、この指導を「速く流す改善」と置き換えて、設備配置の見直しを進めてきた。本来なら投入から出荷までの全工程を一直線に並べ、後工程が1個引けば前工程が1個造る単純ライン化をめざすべきだろうが、我々は生産フロアの問題と、各設備の加工能力が違うことから発生する無駄を最小限に抑えることを考え、係毎に数工程ずつをつないだ短い一直線ラインを作り、このライン間はストアとみずすましでつなぐ、いわゆる模擬一直線ラインを作り上げてきた。このラインが前者の一直線ラインに比べて最も優れているのは、“人の管理力向上に極めて有効である”ことだと理解している。なぜなら “されどかんばん”を制すべく、日夜かんばん運用にみんなで向き合い知恵を出し、そして新たな間締めや設備の並び替えにチャレンジしていく。現在も進行形であり、前者の一直線ラインを構築できない負け惜しみで無いと、ご理解頂ければありがたい。
A 2項で述べた通り、引き取り情報は(ストア数+1)×みずすましタクト時間で出荷から投入工程まで伝わるはずだが、これを阻害している要因の一つに中継ポストの存在がある。これはフロアの問題で、みずすまし以外の人にかんばんを運んでもらうために設けた邪道ポストである。これを削除すべく活動している。更には、みずすましが歩行中、或いはストアで買い物する場合に不自然な挙動でかんばんを入れたり取ったりする無駄があり、これも排除すべく活動している。

3―3.繰返し作業にしなさい!
 我々は、この指導も「速く流す改善」と置き換えて、記帳をはじめとした無駄取りを進めている。
@ この代表工程では、一人のみずすましが12工程の設備に対して、加工済み品を取り出し、次に加工する製品を仕掛けて設備を稼動させる体制を作り上げた。配置人員を減らす成果も得た。ここでは各人の多能工化工程を決める際の手順化の必然性を体験した。また、バッチ作業の工程でも工夫すれば1ロットずつ払い出せることを学んだ。
A 現在注力しているのは、工場から半製品が一度めっき工場に出て行く、バッチ工程の最たる部分への改善である。めっき工程は全工程の中間に位置しているため、引き取り生産の未成熟部分をここで緩衝させていた。具体的には1−4−2とかの定期便返却を確立すべきところ、「この便で帰して!」という腕力可能方式としていた。ここを定期便返却方式にレベルアップし、全工程が定期・定量で流せる体制にすべく試行錯誤を重ねている。 注)1−4−2:1日の往復便が4便で、2便遅れで戻ってくる方式を言う。

3−4.お客様が要求された物だけ造りなさい!
 我々は、まず工場内の後工程要求生産を確立するために、後工程をお客様と見立てて物流し方法の改革を進めてきた。曲がりなりにもその体を成してきたため、生産に繰返し性のある製品からお客様の要求を工場内に直接反映し、その拡大を始めている。これがNECエレクトニクス社全体の効果につながる期待は大きい。

3−5.先生の指導に先んじようと進めた活動 (結局“早く流す改善”だが)
 改善テーマのほとんどは指導会を契機に生まれるが、それだけでは面白くない。何とか先生をうならせる改善をやりたい。この頃は少し余裕ができたのか、そう思うようになってきた。以下に改善の概要と先生の反応という構成で紹介する。
@ 創業当初から、樹脂封止後の半製品は専用BOXを用いて工程間搬送を行ってきた。これを半年かけてBOXレス搬送を実現した。生産性50%向上、工場のリードタイムは20%も短縮した。
我々は「これぞ改革だ!」と自負しており、BOXレス搬送の開始式では先生にもテープカットに参加して頂き、「なかなか良い改善だ」と絶賛を得た自信作である。
A 製品加工途中で、その出来栄えをチェックするための移動式台車に11点もの改善を加え、台車を押し始める時の初期トルクを80%減らした改善をはじめ快適作業性を追及した結果、生産性を10%向上させた。先生からも「よく細かい部分まで改善したな」と褒めて頂いた。
B 工程の中には、前工程が正しい作業をしたか確認する無付加価値作業の工程もあり、オペレータは黙々と務めており、これをプラスチックコンベアの上下・回転動作を取り入れた付帯工具の自働搬送と、バーコードを使った仕様書自働検索により生産性を40%向上させた事例があるが、先生は余り感心されず、逆に宿題をもらってしまった。

=BOXレス流しの開始式=
「途中でイレギュラ作業のあったロットのみチェックすればいいはず。どうして問題無いロットまでチェックするんだ?」と。「ごもっともです。技術と品管で改善します」
C 作業の統一化と教育の効率化をねらって“見える仕様書化”に挑戦しており、この度モデル工程でDVD化まで漕ぎ着け教育も開始した。標準化する前に無駄作業を徹底排除したのは言うまでも無いが、先生は余り感心されない。「そんな細かい部分の標準化をする前に、もっと大きな所を標準化すべきだろう!」と思われているに違いない。「ごもっともです。でも、大きい改善は工場だけではなかなか進まないので、こういう細かい改善を多く仕込んでおきたいのです」


4.おわりに

 生産現場を経験したことの無い小職が現場の管理者として業務遂行できているのは、良い仲間に恵まれていることに加え、岩城先生との出会いによるところが大きいと感謝している。指導会でチョッと無理(中には無謀)な宿題をもらい、それをクリアする手段を考え、これに新しい視点で改善を加えて次の指導会に臨む。つまり、先生が言われる原則論を、自分達の生産方式に置き換えて活動を進める“リトル岩城”になってアイデアをひねり出しながら原則論に近づけていく、これが現場管理者の業務ではないだろうか。先生の言葉に真摯に耳を傾け、且つ真面目に平準化生産を追及すれば、生産現場の管理・監督者のあるべき業務までも見出すことができ、そして改善は尽きることが無い、正に“トヨタ生産方式万歳”である。
 とは言うものの、3回目の投稿をする時にはアイデア源も枯渇し、管理者として役立たずになっているかもしれない。しかし、引き換えに《半導体組立工場に於けるトヨタ生産方式のパイオニア工場》と呼ばれる栄誉を手に入れているはずである。そう豪語できるよう今後も先生の指導を受けながら、そして仲間と手を携えて6 Stepの山を登りきりたいと考えている。

以上





 「コンサルタントのひとりごと」
滑竢髏カ産システム研究所  岩城 宏一


全員参加による経営活動の薦め25



 以下に技術管理標準に包含される、標準類の一例を示す。
技術関連会議規定、特許管理規定、図面管理規定、標準類改廃規定、新製品展開規定、文書管理規定、定例会議審議資料作成要領等。これ等の規定類は、主として技術関連の組織の維持運用を標準化するために制定される。
 これによって、技術、開発部門の業務の展開が分かりやすくなり、該当部門内だけではなく、他の関連部署も外部から見て、開発部門の業務が分かりやすくなる。そのため、開発部内の動きに連動した密接な連携がお互いに進み、組織として力を発揮することが可能になる。
 企業が永続的に維持発展しようとするかぎり、会社規模の大小に関係なく、日々の諸活動を効率よく蓄積して行くことは重要なことであり、そのために、これ等の標準化は当然必要である。
「設計標準」は、普通製品の開発時その効果は認められ、一般的に多用されている。しかし、トヨタ生産方式の生産現場では、設計の標準化は開発から生産終息までの、ライフ期間を通じて効果的に機能する。
 設計の標準化は、設計の場面のみならず生産、保守のすべての分野において、その活動を助ける。生産や保守の現場では、それに必要な部品や資材の調達は、非常に困難な仕事であり、そのために多くの労力を費やしている。 そのような中、使用される部品類が標準化され、部品の種類が削減されることは、これらの労力を大幅に軽減する。
 実際の生産現場では、製品ごとに同じ部品が別なものとして図番が設定され全く別な部品として管理されている例など珍しくない。標準化することによって、部品の種類を30%以下に削減した例などは、しばし見かける。
 特にトヨタ生産方式の生産現場では、部品の機種間の転用による、種類や総量の削減、さらには部品置き場の縮小は、かんばんによる調達を簡素化し、その効果は極めて大きい。
 このように設計の標準化が生産活動の広範囲に亘り、効果的に影響を及ぼすためには、上記の技術関連運用のための諸規定が整備され、さらに日常の業務に、これらが定着していることが必要であり、その枠組みの中で、設計標準類が設定、運用されることが大切である。
 多くの場合、標準類の作成は試みられているが、上記のこれに関連する前提条件が整備されていないため、殆ど有効に機能していない。これらの標準類は実際の業務の中で、使用されてはじめて効果を生むことは当然であるが、それによって初めて維持管理されまた進化する。
 例えば、図面管理規定、標準類改廃規定、新製品展開規定等の規定に従い、実際の業務が行われている時「設計標準」類が生かされ、またその適否が点検の対象になる。即ちそのこと自体が、標準類を適切に維持管理することに他ならない。
 標準化を途中であきらめてしまっている多くの例を見るが、それらの大多数が、標準類が実際の業務と遊離した中で、担当部署がその制度のみの維持管理に奔走している。このことは多くの人達が経験してきていることであろう。
 すでに述べたように、これらの標準類が生かされる大前提は、業務そのものが標準作業として整備されていることである。実際の仕事の整備は、書類段階の整備に比較し、何十倍もの努力と、全社的な長期間に亘る取り組みが必要であり、書類の整備をもって標準化が終わるものでは決して無い。トヨタ生産方式の導入は、この重要な全社的な取り組みである。


(以下次号)



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