発行者 株式会社岩城生産システム研究所

 編集者 有限会社IPSインターナショナル
   平成18年11月01日発行 第029号
 お知らせ

「岩城生産システム研究所NEWS」第29号を発行させていただきます。

今回はNECセミコンパッケージソリューションズ・佐藤光信様及び、弊社・岩城宏一のコラム「全員参加による経営活動の

薦め9」を掲載させていただきます。どうぞ宜しくお願い致します。

                                                                   業務部




「私の理解したトヨタ生産方式」
NECセミコンパッケージ・ソリューションズ梶@熊本工場 佐藤 光信 様

1.はじめに

 
私はNECエレクトロニクスの半導体生産の後工程(組立とテスト)を担当する分身会社で、LSIの組立製造を担当して

いる。 岩城先生の本格的指導を受け始めて早4年が経過しようとしており、やっとトヨタ生産方式の考え方が分かり始めた

“ひよこ”の身でありながら、『私の理解したトヨタ生産方式』という仰々しいタイトルで投稿することに恐縮しながらも、厚かま

しくパソコンに向かっている“横着者”である。


2.岩城先生の指導を受け始めた頃

 
指導を受け始めた当初は例に漏れず(他の人達もそうだっただろうという勝手な解釈)、「この生産方式はコンベア生産

方式がめざす最終姿だから、設備を切替えながら少量多品種を生産する半導体産業にはそぐわない」という消極的スタンス

であった。と言いながらも、岩城先生の言われることにいちいち納得していたのも事実である。

 
くしくも当工場はトヨタ自動車様をエンドユーザとする車載用半導体の組立を担当しており、絶対出してはならない品質

クレームと、絶対出してはならない欠品という二つの大きな課題を抱え、特別な管理体制や多くの仕掛を持つ、いわゆる

安全係数大の生産をしているという側面があった。


3.本気になったあの日

 
そういう中にあって、消極的活動を一変させる指導を受けることになる。忘れもしない03年6月17日である、と言うより

我々にとっては17日から18日にかけての徹夜による宿題克服であった。17日に岩城先生が我々に与えられた宿題は、

「トヨタ様向け製品を、入庫から投入までかんばんで引く体制を作れ」という、我々にとっての聖域に踏み込む内容だった。

工場長を含めて夜を徹して喧々諤々の討議を重ね、そして18日の朝までに出来る限りの改善を行い、翌日の指導会に

望んだのである。
今思えば、これが我々の活動を積極的活動へと歩を進めさせた瞬間である。


4.活動の効果

 
これを契機に、岩城先生の一言ひとことに耳を傾け、必死に食らい付きながら活動を進めてきた。

先生に指導を受けたこと以外にも自分達で工夫して生産方式を改革してきた。例えば、繰り返し生産しない製品、即ち、

自由席品の生産方式にも一通りの目処をつけることができた。そして最も大きな成果は、トヨタ様向け製品の工程内仕掛

が激減し、生産リードタイムが60%も短縮できたことである。

この他、従来から“のこぎり歯改善”と揶揄されるリードタイム短縮活動はやっていたものの思うような成果は得られず、また

少し出た成果もイベントと共に消滅していた。ところが本活動を通じ、かんばん枚数(設備とストアに持つ手持ち量)によって

リードタイムを設計できることを体得した。即ち、リードタイムは自分達で設計でき且つ、効果を維持できることに気づいたの

である。
このように定量的成果の他、活動の進展に伴い我々も成長できた効果は計り知れなく大きい。


5.私が考えるステップ活動

 
今年に入って岩城先生が病気療養をされたため一時期指導会が途切れた。「俺が来ないと進まないな!」と言われない

ように自分達で考えながら活動を進めてきた。

 
あわせて、この機会に岩城先生から指導受けてきたことをまとめてみようと思いついた。その結果、次表のようなステップ

活動がスムーズな活動につながるのではないかと思い至った。そして岩城先生が復帰された9月の指導会、恐る恐る見て

頂いた。「まあ、いいんじゃないか。コラムに『私の理解したトヨタ生産方式』というタイトルで投稿しなさい」と言われ、渋々

パソコンに向かった次第である。
これで私が“横着者で無く小心者である”ことをご理解頂けるものと思う。


   


コラムという域を超えてしまうが、折角の機会だから上記表の内容について少し述べさせて頂きたい。

 
まず1STEPである。 真っ先に、タクト生産に不可欠な役割を担うみずすましを導入しなければならない。現有人員からの

捻出に難しさを感じるものの意外と何とかなるものである。 しかし小ロットサイズ化は難物である。 数が出なくなるとロット

サイズを大きくして設備の切替え回数を減らすという、過去から営々と培ってきた風土を変えるエネルギは膨大であり、そう

いう意味からも今までの流し方に決別するための洗礼ステップと言えるだろう。

 
2STEPは、ストア(店)作りである。至る所に点在していた仕掛をストアのみに集約する。そしてストアは後工程の要求する

物が分かる間口を設けなければならない。即ち、かんばん運用を開始するための準備ステップと言えるだろう。

 
3STEPは、いよいよかんばんの運用に入る。間口単位のかんばんを用いてストアで買い物する方式を開始する。 ここで

“かんばん枚数=工程仕掛りロット数”という、当り前の新鮮さに驚きを経験することになる。即ち、標準手持ち量という考え方

を理解するステップと言える。

 
4STEPは、真の意味で設備のレイアウトを変えるステップである。従来、無駄なエネルギを使って設備を切り替え、製品の

先入先出を行っていたものを、繰り返し品は流すラインを固定化して無理なく流す、そして前後工程の設備をくっつけることで

必然的にフルワーク流しを確立するためのステップである。

 
5STEPは、1ロットを小分けして流すことで標準手持ち量を激減させるためのステップと言える。ロット単位で物を流すという

常識を打破するハードルの高いステップである。

 
最後が仕上げの6STEPだが、さすがにこの山は高い。我々もやっと2合目に差し掛かった位であり、関係部門と手を携え

ながら確実に上り切りたいと思っている。


6.おわりに

 
今まで岩城先生の指導を受けながら活動を進めて来て思うのは、理屈はすぐに理解できる、と言うより当り前のことしか

言われない。しかし、真に理解し且つ、具現化するのは極めて難しい。「たかがかんばん、されどかんばん」である。岩城先生

著書の“実践トヨタ生産方式“を買った。 この本を片手に、目の前にそびえ立つ今まで以上に高く険しい山に向かい、ひるむ

ことなく最終姿に向かって着実に歩を進めるつもりである。 ”半導体組立工場に於けるトヨタ生産方式のパイオニア工場“と

呼ばれる日をめざして!

 
その時に改めて『私の理解したトヨタ生産方式』というタイトルに恥じない内容に一新し、そしてもう一度投稿の機会を与えて

頂きたいと思っている。

                                                                      以上



「コンサルタントのひとりごと」
滑竢髏カ産システム研究所  岩城 宏一
 全員参加による経営活動の薦め9

 トヨタ生産方式に変わった生産現場では、そこで働いている人々が、誰に指示されることも無く自主的に、いきいきと働いて

いる。もし生産現場以外の全
べての職場で、このような変化を起こすことが出来れば、会社は間違いなく大きく飛躍できるで

しょう。


 先日ある大手の製品開発関係の会社での社員の意識調査を見ました。その結果によると、仕事に生き甲斐を感じて仕事を

している人は、全体の10%以下
でありました。これは私も常々感じている予想通りの結果でした。

 
このように、人々が思う存分に自分の力を発揮できる職場は、一般的には大変少ないのです。その原因は、働いている人々

個人の問題ではなく、人々が置
かれている職場の環境にあります。私は40年近く悶々として、このような会社組織の中で働い

てきました。

 
極端なことを言えば、会社の組織や上司は、部下の意欲燃やすどころか、それを潰す以外の、何物でもないとさえ感じてきま

した。たまには頼りになる上
司と回り逢い、生き甲斐を感じて仕事をに取り組んだときもありましたが、それは例外で、長い会社

生活の中でも、極く限られた期間でありました。

 
このような状況は、トヨタ生産方式に変わる以前の生産現場の職場の様子と、大変よく似ています。従来の生産現場では、

人々は管理監督者の管理の下で働
いていますが、管理がゆきとどかず、結局多くの職場で成り行き任せになり、思うようには

働けていないのが実情です。


 このことは、管理監督者が人々を管理して、力いっぱい働かすことは不可能であることを示すものです。人々が自分の能力を

十分発揮するためには、管理
されて“働かされる”職場ではなく、自発的に“自ら働く”ことを可能にするような職場に変える以外

ありません。


 生産現場ではトヨタ生産方式に変えることによって、生産を平準化し、自働的にジャストインタイムに生産することで、人々の

働き方を従来の集中管理の
下で“働かされる”を “自ら働く”に変えています。 このように、間接部門でも“働かされる”仕事の

仕方を“自ら働く”に変えるために、生産現場を改革
した手段に類するような方法を、見つけることが必要であります。

 
この問題に対しては、トヨタ生産方式のジャストインタイムや平準化などが、生産現場の人の働きに対して、どのように作用し

ているかを調べてみると、手
掛かり掴むとが出来るでしょう。

 
先ずトヨタ生産方式への移行のための大事なステップである、品物の停滞を無くして流れを通すことは、前後工程のお互いの

動きの連携をより密接なもの
にし、最終的にはお互いの動きを完全に同期させることになります。

 しかし、ここで大切なことは、トヨタ生産方式の最も大きな特徴である、“下から引く”の作用によって、この場合の同期は強制

的なものではなく、皆んな
が、あたかもマスゲームでもするように、自律的な同期になっているのであります。トヨタ生産方式の

最も大きな特徴である“下から引く”、即ち後ろの工程
は仕事が終わると、前工程に仕事を引き取りに行き、そこでリレーのバト

ンタ
ッチのように仕事が手渡しされます。

 
それによって、今までは何時も、ただ指示された通りに仕事をしていた人々が、監督者の指示ではなく、後ろの工程の人が

引き取りに合わせながら、
自らの判断で仕事をするように変わります。このことは “働かされる”を“自ら働く”に変えるための

重要な第一歩であります。


(次号につづく)


                                                                       以上


■無断複製・転用・販売を禁止します■
Copyright©Iwaki Production Systems Research Ltd. 2005-