2018年9月 1日 発行

連載コラム

第187号「止められる設備」岩城生産システム研究所岩城 康智

 大昔の話で、某Sというコンサルが現場に来た時のことです。
“こんな止まらん機械で物ができるか”と怒られた事があります。 当時新入社員の私は、TPSの全てにトンチンカンでしたので、此の期に及んで“いよいよこの人(頭に)来たな”と思ったくらい、印象に残っています。
 トヨタ生産方式は、異常があれば、直ちにラインを止めるという事が、よく知られていると同時に、何か特別の事のように言われている様です。 実際組み立てラインにいると、10分もしないうちに何処かがアンドンをひいて、コンベヤーが止まっています。なぜそんなにチョコチョコ止めるのか、初めてラインを見る人にとっては不思議とは思いますが、実はそれほど特別な事では無いのです。
 車を運転している時に、異常が起きたらブレーキを掛け止まるでしょう。これは車に限らず、電車でも、飛行機でも異常があれば停止します。 これは、止まることで、さらに重大問題にならないようにする為に、自然と対処している訳です。  問題は止まり方です。
 止まらねばならないと言ってもどこでも止まっていいわけでは無くて、ちゃんと止まるべき所で止まらないと、もっと大きな問題となり復旧に時間がかかったり、それがきっかけでさらなる問題(チェーン・リアクション)につながってしまうのです。
 例えば、車が高速道路の真ん中で停車したら、さらなる事故の原因になるし、電車ならば、駅に停車するはずです。また、飛行機ならば飛行場に着陸しなければそれこそ墜落したという事になってしまいます。 では組み立てラインではどうなっているかと言うと“1サイクルの終わりまで作業して停止する“と言うのが通常の止まり方になります。(安全問題等の緊急事態は直ちに止まります)そうしないと復帰した時に品質問題が起きる事があるからで、常に再起動出来る様に停止するのです。トヨタの組み立てラインはこの辺りが非常にうまく作られているのと、作業者が慣れているので、しょっちゅう止まっても全く問題がないわけです。
 特にプロセス系の工場では、反応途中で止めることは品質問題に直接結びつきますので、原則、反応が終了するまでを1サイクルの仕事とみなし、反応終了後に停止する事となります。
 肝心なのは止めるのは品質保障と、工程の不具合をなおして再発防止をするのが目的ですので、それを加味したライン設計が重要と言えます。
 よく近代的な設備と称して全自動+インラインでの連続反応を目指したラインを見かけるのですが、完全に連続して止める場所がない様なデザインでは、品質問題が起きた時の損害が深刻になる可能性があります。(ブレーキの無い車) したがって、ラインを設計するに当たっては、少なくも過去の品質(安全)問題に対しては、適切に停止できる様な設備にしたいものです。
 これがプロセス・エンジニアの仕事では無いでしょうか?

以上