2017年10月 1日 発行

連載コラム

第185号「むかし話 (3)」岩城生産システム研究所岩城 康智

 Rhichard Beechingの場合
 ビーチング博士、20世紀の物理・技術博士です。
皆さんもご存知のようにイギリスは鉄道発祥の国で、その鉄道網は全国に広がっていたわけです。ところが、大戦中に十分保全されなかった為+労働問題等で、瀕死の状態でした。
これを救うべく国鉄総裁になったのが、ビーチング博士でした。彼は国鉄を救済する為に“近代化”を進めるのですが、その一つが電化とディーゼル化だったのです。問題はもう一つの不採算路線を廃止しました。実に営業総距離の3分の1と全体の半数の停車駅を廃止したのです(ビーチングの斧)。目的は収益性の向上にあったわけですが、うまくいけば当時のお金で200億円くらいは儲かるはずでした。これは現在の価値で4500億円になるもので、そろばんはあっていたと言えます。
しかし、実際は売り上げ減による、収入が減ったほうが多く、赤字はさらに広がり、実際に国鉄が再建に向かって踏み出せたのは実に2006年以降になるのです。
 しかし、本当の問題は、失ったお金だけでなく、ビーチング博士のつくった損害は、失ってしまった凄まじい数のローカル線で、その中には今では立派な収益をあげたに違いないものがあるのです。
また、脱二酸化炭素社会の流れの中で、あまりにも高速道路に依存してしまった、現在の状況、等々悔やみきれないものは多いのです。
 しかし、これらはまだ回復可能なところで、もっと困るのは、世界一の鉄道王国を支えた技術が全く無になってしまったことです。
 一方 150年前にその技術をもたらされた日本は、たまたまビーチング博士のような総裁が現れず?民営化を経て技術的には世界一の鉄道になっているのは興味深い話です。
 実際イギリスでは、現在日本に対して40年は遅れている鉄道網が、日本の技術で再建しようとしているのです。2027年完成予定のHS2はいわゆるイギリスの新幹線ですが、日立の技術によるものです。
むかし話(1)と(2)にあるような会社は実際にある話で、この後どうなってしまうのかは、ご想像に任せますが、私たちの周りでも最近よく見かけるので、書かせてもらいました。
 また、このような会社は、欧米においては日本以上に普通にある話で、場合によっては、これが資本主義社会の進化のように言われることもあり、ちょっと閉口するときもあるのです。
これを読まれている読者が投資家で、利益を最優先に思っているのならば、これでいいのかもしれませんが、資本主義社会はあくまでも“公共に対しての貢献”がその目的でもあるのです。これがビジネスマンの王道ですし、それができることによって社会全体が潤い、そして資本家も潤うというのが最も多くの富を得る方法です。投資家個人の利益を追求するのは単なる“投資ゲーム”でしか過ぎず、そのような人々をギャンブラーと呼ぶのです。
いつの間にか日本のGDPの7割が非生産部門になってしまったようです。これを“進化”と呼ぶのでしょうか?   (終わり)