連載コラム

第172号「在庫の役割」岩城生産システム研究所岩城 康智

 一般に在庫削減によって企業の収益は大きく改善されると言われていますが、具体的にどのくらい収益に貢献したかはなかなか正確に評価できていないと思います。
元々なんのための在庫かがわからないまま、漠然と作っているのが実情ではないでしょうか。と書くと生産管理の方々にとっては、とんでもない、毎日営業と生産の間で大変な作業をしている!と反論されると思います。
それは承知した上で、在庫について説明させてください。
1、 端数在庫:製造の工程上の最小単位(バッチサイズ)と出荷時の数量の差による在庫。一個作りにすれば無くなるのですが、これらは流動している限り害ではなく、毎日生産しているのならば、通常多くても数時間分の在庫と思ってください。
2、 物流上の在庫:物流時間上にある在庫。特に海外から調達している場合は、通関時+海上輸送+陸上輸送上にある在庫。買う頻度で大きく変わるので、理想的な毎週買う前提で海上輸送日数が2週間と仮定すると1+2+1となるので4週間となります。
3、 仕掛かり:製造ライン上に存在する在庫。1バッチ1個作りでタクトタイムが1分の場合、10工程でしたら10個となります。
これらの在庫については在庫削減においては十分検討しないと生産が続けられなくなる若しくは効率を大きく損なうので、1、バッチサイズ。2、買う頻度・海上輸送日数LTをどのくらいにすれば良いのかを検討するのが必要になり、これこそが生産管理の仕事と言えるのかもしれません。

次にそれ以外の在庫の部品在庫と製品在庫ですが、 ラインに各出荷便の出荷量に十分な生産能力を持たせれば、製品在庫は基本的に0で、部品在庫においても供給便が毎日来るのであるならば0となります。これは計算間違えではなく、1日の生産が終わった時点ではという意味で、もちろん供給便が来た直後と、出荷便の来る直前は1日になるので、荷扱い/保管庫はちゃんと必要ですが、最小在庫(基準在庫という場合もありますが)は0であることは理解していただけると思います。
実際は理屈はともかくも、これでは生産できていないのが実情です。
なぜこんな在庫がいるのかが問題です。それを検証するために次のことに着目してください。
1、 出荷時刻?ラインのL/Tで、着工しているか?生産はあくまでも出荷時間に合わせて作り、“より前”で作らない事が肝です。
2、 ラインの生産遅れ(トラブル等によるライン停止)は解消できているのか? つまり不慮の事故(協力企業の部品欠品も含みます)で出荷時間に遅れることが無いこと、1、とは裏腹になりますが‥。
3、 100%良品が保証できているのか?
4、 “爆販”に対する生産計画は“完売保証”前提で合議されているのか?完売保証は営業が工場に対して行う約束で、これを実現するためには予測を細かく修正するしかありません。但し、生産スケジュールの進捗実績に基づいて、石橋を叩く気持ちで調整してください。その時のコツは“絶対に作りすぎない”という事です。
実は上記の事を具現化するのが生産管理の仕事なのです。
これは大変な仕事ですが、これを実践することで、企業の効率は2倍4倍と向上する理屈が理解されると思います。
もちろん削減される在庫量は時には数十億・数百億となりますが、これは結果として減るのであり、それを実現しているのは、会社全体の大きな変革があり、思考の方向が変わるということで、生産管理の皆さんの先導が不可欠と言えるのです。これが我々の活動をSCM改革と呼んでいる理由です。
ちなみに、T社の中では生産管理は工務と呼ばれているのですが、これはこのように広範囲な仕事をしているのが理由なのかもしれません。