昨日行田市に所在する“ものつくり大学”の学園祭に出かけた。現在半導体業界について連載中であるが、今回は飛び入りで、その時のことを掲載したいと思う。
この大学は、私が丁度会社を退社した年に開校した。豊田 章一郎さんが理事長をされ、トヨタ自動車もその経営には、いろいろと関係している様子である。また校舎は、私の自宅から行田市のジェコ―への通勤路の途中にあり、外観のみはいつも見慣れたものであったが、それ以上の特別な関わりはなく、今日に至っている。ところが先日、行田市に住む友人の一人から、10月30日にトヨタの張会長の記念講演ある旨連絡があり、その関係で当日この大学を訪れた。
学園内に入り先ず驚いたことは、私はせいぜい40〜50人程度のトヨタ関連の特殊な学校と思っていたが、通常の大学と全く変わらず、沢山の学生達が学んでいる。さらに、その履修の対象がトヨタ関連ではなく、物つくりに関して広範囲にわたっていることである。
その対象範囲は、通常のように金属加工、木工等中心であるが、ここでは、大学の学問的な一般的なイメージとは大変異なるものであった。それは、ものつくりの基礎である、各個人の技能の育成に主眼が置かれているようであった。これは、さすがにトヨタが支援している学校だと感じ入った。我々は日頃工場での生産に関わっているために、ついついこのような、個々人の固有の技能によって支えられた物造りの大切さを、忘れてしまっていることを気付かせてくれた。
張さんの講演内容も、大野さん、鈴村さんによる、仕事と云う円を書いて、仕事の中には、本当の仕事と無駄な仕事がある話から、その無駄について直接生産現場での数々の事例に関係した話であった。地味な話であったが、私には貴重なものであった。毎日多くの人達との改善に当たり「仕事の中に無駄がある”」この基本的な認識を、改善に当たり一層の徹底することの必要性を感じた。
講演の最後に、日本の企業のインドでの地下鉄建設にまつわる話の引用があった。その内容は 地下鉄の建設時、日本の関係者は揃いの作業着を着用し、15分前には全員が作業の準備をして待機している。それに反しインドの作業者は、10分経っても集まらない。これに対し彼等は小言一つ言うこともなく、定刻には一斉に仕事を始める。日本とインドのこの文化の違いを学び、その後地下鉄の正確な時間の運行が、数時間程度の遅れは日常茶飯事であったインド社会に大きなインパクトを与えた。それは、経済的な援助ではとても成しえない程の大きな貢献をしてくれた。という話であった。
最近世界中が金融の破綻で大きな問題になっている。お金が価値あるものとして世界を支配していた時代が今や崩壊しつつある。それに代わる本当の価値は、その国がもつ時代のニーズ対し自在に対応する国力であろう。ここでとりあげた個々の人達が身に付けた優れた技能、仕事の現場をあくまでも大切にす風土、さらに時間を守る国民性等は、これまでのお金に代わる、これからの価値としての国力を支える重要な要素であろう。
以上
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