発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年10月1日発行 第147号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「物つくり軽視の風潮」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「物つくり軽視の風潮」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

前号の順序立て生産についての議論の時「最近学会や経済界で、日本は物つくりではなく、金融、観光等で生きていくべきだという風潮が非常に強い。確かに金融も大事であるが、物つくりがあってはじめて金融が存在するのであって、主客転倒して金融を過大評価している」と、意見が出された。
 これは全く同感であり、評論家や学者ばかりでなく、製造業の経営者の殆どが同様である。かっては、世界の生産工場は中国だと、一斉に生産を海外に移し、今度は物つくりはだめだと、もっともらしい評論家達の論陣に賛同する。
 先日の新聞紙上で、「どんなことがあっても日本でのものつくりは継続する」とトヨタの社長は発言している。これが我が国の経営者としての決意であろう。
 私は多くの生産現場に出入りしているが、生産現場に関心を持ち、そこに出かける経営者など見たことが無い。これらの人達は、その任務にありながら、本当の働きを求め、妥協を許さない現場を敬遠し、いろいろな口実を設けては寄りつかない。評論家や学者はともかく、仕事を守らなければならない経営者自身が、要は“自ら汗を流して働く”を知らないし、興味さえ持っていないということである。
 こんなことで、無資源の我が国が生きていけるはずがない。直接生産活動に携わっている、我々がよほどしっかりして、このような風潮に流されることなく、改めていかなければならない。そのためには、議論に留まることなく具体的に改善を行って成果をあげ、その成果もって現在の迷走する製造業の在り方を示すしかないと思っている。皆さんの日々の健闘に対する期待は大変大きい。
 このやりとりの中で、東大のものつくりセンターに、日本の学生が集まらず、韓国や中国等の留学生ばかりだという話が出た。しかしこれは少々事情の違う話であろう。本当に物つくりを志し、それを学習しようとする人達は、日本では大学や研究機関ではなく、仕事の現場を選択するではないだろうか。現実に、私はそのような大勢の人達を身近で見ており、彼等の日々の成長はめざましい。また、予想を越えた成果を次から次に創出していく。彼らが日本の強さを、将来にむけて十分支えてくれるものと確信している。
 むしろ大学や研究機関が、現在の社会のニーズ対応出来なくなっていることに問題がある。現在のように過当競争の中で生き残るためには、如何にして一般的な水準を越え、独自のものを創出するかにある。そのチャンスは仕事の現場にこそあり、現場から離れた研究室にはないと言っても過言ではないだろう。
 大学や研究機関が時代のニーズに応えられなくなった主因は、その主舞台が実際の仕事の現場ではなく、旧来依然として研究室や学会等であることであろう。

 お詫び、この号の原稿の草稿が手違いにより、前号にすでに掲載されてしまいました。内容が重複しますが、あらためて再載しました。

以上

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