発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 9月15日発行 第146号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「順序立て生産の功罪」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「順序立て生産の功罪」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

先日出版された著書の中で、日産の同期化実験、順序立て生産について。多くの紙面を費やし、肯定的に議論されている。しかし、私はこれはあまり推奨したくないと思っている。そのため、このコラムでは現在半導体事業の再生について連載中であるが、一休みして、以下に順序立て生産について、私の見解を以下にまとめた。
 各工程を完全に同期させることを狙って、順序立て生産を指向している例は、実際の生産工場で多く見かける。これを試みる工場は一般的に比較的レベルの高い生産現場である。しかし、そのためには多くの労力を必要とする。また例外的な製品以外は、部品供給から出荷までの全体を通しての、同期化の徹底は出来ないのが普通である。そのため、大概はメインの組立ライン等の主要な工程の順序立てしている場合が多いが、それを維持する為に、部品の停滞等他の部分にしわ寄せを起こしがちである。
 さらなる問題は、上述のようにメインの組立の順序立てを行うにしても、そのための管理が必要になり、完全に手放しと言うわけにはいかない。このような制約を無くすために、トヨタ生産方式の3本柱の一つである生産の「平準化」を採用し、特別な場合以外は順序立生産は指向しないのが得策である。
 ご存じのように、平準化は製品A、B、C、、、、、の一ヶ月間総数を稼働日で除した日当たりの平均値で日々、a、b、c、、、、、の組み合わせで流す。それにより、日当たりではa、b、c、、、、、と異なる品種を流すことになる。しかし、この組み合わせを固定化して毎日繰り返すため、機種変え(段取替を)さえ改善すれば、実質的には毎日同じ製品の生産の繰り返しと同等の効果を得ることが出来る。
 このように、毎日同じものを流すことになれば、それに対応する仕組み、すなわち、店とかんばんをつくり、それをかんばん便で繋ぐことによって、に生産が維持出来、それ以外の管理は全く必要がなくなってしまう(自働化)。
 この場合、各製品は当月の総生産数を稼働日で除した平均値でつくるため、日々変動する販売数との間には当然差が生し、完全には売れには同期していない。そのため、顧客へのデリバリーに支障をきたさないように、製品の店として、あらかじめ品揃えした在庫によって、その差を吸収する。
 そのダンパーとしての店の在庫は、3日移動平均や引き溜めによって、通常の製品の場合最大3日分程度ですむ。またその設置場所は、振れの発生源に近いところに設置するのが合理的である。トヨタが、生産工場ではなく各地区のメインディーラーに店をつくるのはそのためである。
 生産の平準化によって、特別な管理をすることなく、生産に関する全域にわたり同期化できることは、現在の経済環境に対応する上で、その意義は極めて大きい。順序立等の通常の生産方式に対して、総合効率を少なくとも50%以上の改善が可能である。
 日々のデリバリーは、製造業にとっては日常業務でありながら、それを滞りなく完遂するために、普通は会社中が大きな労力を費やしている。生産が平準化されてくると、デリバリー管理から解放され、その事情が一変し、会社全体が改革や改善のみに注力出来るようになる。
 このことは、私の「物づくりが国を支える」に述べてあるように、人の成長と智恵が経営参加出来る経営管理の仕組上、最も重要な「維持業務は標準化して仕掛けで運用し改革、改善事項のみ管理する」を実現する上での重要な方策である。
 現在の経済情勢の中で、我が国の製造業が生き残っていくためには、現状の少なくとも50%以上の生産性の向上は必要である。それを可能にするものは、現在の経営や生産構造の延長線(例えば順序立て生産等)上での進化ではなく、基本的な思想を改め、それをもとにした、新たな経営構造を再構築することである。 その解の一つはトヨタ生産方式にあり、この生産方式を正確に理解し確実に具体化することが大切である。そのための努力の日々の積み重ねこそ、現在の我が国の製造業を蘇生する、原動力であると思う。



 8月15日メールにてご指摘の「主客転倒して金融を過大評価、、、、、、」全く同感であります。評論家や学者ばかりでなく、製造業の経営者の殆どの人達まで同様であります。これらの人達は、もともその任にありながら、本当の働きを要求される仕事の現場を敬遠し寄りつきません。
 東大のものつくりセンターに人が集まらないのも困りものです。しかし本当にものつくりに従事し、それを高めようとする人達は、日本では大学や研究機関ではなく、仕事の現場を選択するでしょう。私は、そのような大勢の人達を身近で見ており、彼等の日々の成長は、日本の強さを十分継承してくれるものと期待しております。
 「モジュラー型」これが現在の市場で通用するとはとても思いません。そもそも「組合せ型」「すり合わせが型」に生産を区分すること自体正しくないでしょう。特に「すり合わせが型」を否定的に捉えるのは、過当競争の先頭で戦っている実際の業務からは遊離した見解でしょう。
 出図された設計図をそのまま生産することを、おそらく「組合せ型」と称しているのでしょう。欧米は設計図の完成度が高いので、すり合わせが必要なく、日本の場合は完成度が低いので、すり合わせが必要と受け留めているのでしょうか。もしそのような解釈でしたら正しくないでしょう。
 一例として我々の場合は、必ず「すり合わせ」をすることを、新製品展開手順の中に組み込み規定化しています。それは図面完成度の問題ではなく、製品の企画値(特性、品質、原価)を満たすために、設計部門のみならず、新製品の構成に関係する全部署、品質保証、生産、購買、財務の智恵を取り込むためであります。
 同業欧米に比較し、我々の図面の完成度は数段高いと思います。それは、設計、生産、部品等関係部署が日々改善されているため、それを設計に反映させるために設計標準を整備し、その都度設計標準を改定しているためであります。即ち、それにより作図時には図面そのものが既にすり合わせが行われているということです。
 すり合わせの必要性は、新製品は旧来品を置き変えることを目的にしているため、その企画値は必ず現状を改善しないと充足出来ない厳しい値が設定されるためであります。即ち“これは大変厳しい目標であるが、関係部署の全員が智恵を出せば、何とか物にすることが出来るだろう”ということであります。
 トヨタのハイブリッドのプリウスを、200万円台を実現したのは、トヨタのみならず全部品メーカの参加、すなわち皆の智恵のすり合わせによる偉大な成果であります。
 モジュール型は、このような大切なすり合わせができないこと、またモジュールの組み合わせによる制約のため、QCDの限界値の追求が出来ない等の問題があり、極く特定なもの以外は市場競争力を維持出来ないでしょう。
 モジュール型は設計段階で処理される問題と思いますが、ご指摘の通り製造過程も当然関係していると思います。モジュール型は設計に際して、製造過程の良し悪しで、総ての面で製品が大きな影響を受けること、およびそれに対して、生産側の人々が能動的に寄与することを、彼等はもともと期待していないのでしょう。また日本とは全く事情が異なり、現実に生産側の人々は能動的に機能しておりません。なおトヨタ生産方式での「パターン」は一つのユニットではありますが、そのニーズと効果が全く異なり別のことでしょう。
 長くなりましたが、また別途の機会に補いたいと思います。最後にトヨタの田中さんは、30年程度前(当社、ジェコーの内山田社長、土屋副社長時代)トヨタの購買に所属されていた方ではないかと思っております。もしその方でしたら、私も良く存じあげており、大変お世話になりました。その件に関する情報を頂ければ大変有り難く思います。 気候も変わり目であり、くれぐれもご自愛下さい。

 敬具

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