発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 9月1日発行 第145号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「半導体事業の再生(5)」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「半導体事業の再生(5)」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

半導体工場の無駄の数々(見込み生産による無駄)

 一歩半導体工場の中に踏み入れてみると、その立派な設備群に驚く。確かに半導体は、設備産業であるとの思いを湧かせる。しかしこれから俎上に載せようとしている多くの無駄は、多かれ少なかれこれらの設備群に誘発されている。
 先ず目につくのは、このような設備群の間に点在する、多くの仕掛品と防塵服に身を固めた、緩慢な動きの作業者達である。一見してまともな物つくりができていないことが判る。
 これらの設備群と多くの仕掛品、さらに緩慢な動きの作業者は、いずれも「速く沢山造れば安価になる」または「半導体工場は特殊のもの」と云った考え方を同根にした、半導体工場の典型的な無駄である。
 先ず設備は大変高価であるため、「より速く沢山つくる」のコンセプトを基に、個々の設備は“遊ばせない”ことを重点に、設備を止めることを極力嫌う。その加工したもので賄っている。そのため、それが必要なものであるか否かは二の次で、沢山の仕掛を積み上げている。
 従って仕掛は沢山あるが、後ろの工程が必要なものが必ずある保証はない。そのため“いらないものは沢山あるが、今欲しいものが無い”と云う現象が日常的に発生している。先頭から最終出荷工程までの数百工程を、このような過程を経由しながら、品物が送られてくる。当然最終工程まで辿り着くまでの時間は、実際の加工時間より何倍も長くなる。
 御存知のように、半導体の工程はシリコンのウェハーの上に、回路を40層程度重ねていくのであるが、正味は1日(24時間)2〜3の積層は可能であるにも関わらず、普通は一層の回路を形造するのがやっとである。そのため半導体の生産のリードタイムは、2〜3ヶ月かかるのが普通である。
 即ち、20日程度のリードタイムで生産出来るものを、3ヶ月近くかけて造っていること自体、工場の稼働効率悪化の重要な原因である。しかしより大きな問題は、完成した製品の中には販売に充当出来ないものが、かなりの数量必ずあることである。これらの多くは、数ヶ月単位ごとに定期的に償却され、損金または製品歩留まり等の形で、経理的に処理されている。
 通常の生産工場は、毎月の20日頃までに翌月の生産計画を決定し、部品等を発注する。しかしそれ以降の発注は、あくまでも予測であって確定できないのが普通である。半導体のように2〜3ヶ月もリードタイムを必要とするものは、当然確定ではなく、あくまでも見込みの数字で投入することになり、必然的に販売に引き当てられないものが発生する。このようなことで、半導体のように定常的に破棄されている製品は、現在ではそれ程多くの例をみることは出来ないであろう。

 つづく 

 バックナンバー
■無断複製・転用・販売を禁止します■
Copyright©Iwaki Production Systems Research Ltd. 2005-