発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 8月15日発行 第144号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「半導体事業の再生(4)」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「半導体事業の再生(4)」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

2) 半導体は設備産業で投資がかさむ  つづき

設備投資がかさむことは、現在この業界のみならず広く一般社会にまで浸透している常識であろう。しかしこの件が、果たしてそれ程確かな根拠があるとは断言出来ないあろう。確かに生産現場は、いかにも高そうな設備が整然と並んでいる。このような工場を見る限りでは、設備で品物がつくられ、多額の投資が必要であったことは理解出来るだろう。
 しかし、半導体はこのような工場でないと、本当に造れないのだろうか?元々は研究室での小さな試作設備から始まっている。それが、より安価につくるために“より早く”“より沢山つくる”ことを業界が指向してきた結果、現在のような大掛かりな工場になってきたのではないか。
 品物がより安価に造れるか否かは、“より早くより沢山つくる”ための設備や工程の部分的な問題ではなく、物を造るために関与する全体(組織)の効率の良し悪しできまる。従って、“より早くより沢山つくる”ことに代わり、半導体をつくり販売するまでの、全体を通して最も効率良く機能するための工場を追求するならば、決して現在の工場とは同じものにはならなかったであろう。
 このように“速く沢山つくれば儲かる”の信仰は、多少にかかわらず半導体のみならず、世間の一般的な傾向であろう。このような判断の上に現在の半導体工場も築かれている。しかし現在の半導体工場は、その傾向が一般的なものより極度に強いということである。現在の半導体製造会社の苦境の原因は、この点にあると云っても過言ではないだろう。
 “合理的なものつくりには、効率の良い全体組織が必要”の考え方は、現在ではそれほど普遍的ではないが、それはより洞察的で正しいものと言える。ではそのような組織とは具体的にどのようなものであろうか?
 この問に応えるために、先ず生産のリードタイムが現在の三ヶ月から、一ヶ月に短縮できたとする。もし、それが出来れば直接生産現場ばかりでなく、生産管理、営業のデリバリ管理等の、あらゆる面で安易で確実になり、当然組織効率は改善される。
 生産のリードタイムは、正味の加工時間と停滞時間によるため、先ず工場内の仕掛を、直接設備の中で加工されている物、または作業者が作業のために使っているもののみにしてみる。その結果は、所謂理論リードタイムまたは、それに近いものになり、当然一ヶ月以内に収まる。このように品物の停滞がなくなった状態を、トヨタ生産方式では仕掛が標準手持ちに変わり、設備や作業者の手元の工程が、フルワークの状態になっているとして、規則正しく正確な標準作業の成立上の重要な要件になっている。
 では上記の、仕掛をフルワーク、標準手持ちに変えるためには、どの様な流し方をすれば良いのか?それは言うまでもなく、生産の方式をトヨタ生産方式に変えるということになる。すなわち、工程を横持ちから縦持ちに変えて品物の流れをつくり、生産を“平準化”し“ジャストインタイム”を“自働的”に行うということになる。
 その時に求められる設備の条件は、よりシンプルで簡便さが求められる。生産の方式をトヨタ生産方式に変え、このことが現実に具体化されてくるに従い、半導体の製造は、現在の設備産業中心の工場ばかりではないことが解るだけでなく、とんでもない無駄な事をしていたことが明らかになる。以下にその無駄が如何に常軌を逸しているかの事例を挙げてみよう。



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