発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 8月 1日発行 第143号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「半導体事業の再生(3)」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「半導体事業の再生(3)」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

2) 半導体は設備産業で投資がかさむ
 半導体事業の創成期は、当然現在のような設備中心の工場ではなく、実験室レベルの装置で、作っていたはずである。しかし用途の拡大が進み、品不足になり、売り手市場の好況な時代が続いている。その進展に伴い、設備は大型化高速化が進み、生産の主役は人の手から設備に移ってきている。その結果設備があれば、作業は誰でもできるといった、現場作業の軽視風潮が生れてきている。その結果、設備投資競争に走ることになる。
 平成15年頃のことであるが、経済産業省の半導体関係の担当部署から、当社を訪問したいとの申し入れがあった。丁度所用で都内に出かける予定があったので、私の方から役所に出かけた。その時面会した次官の方から“この業界の人達は、設備さえあれば半導体は幾らでも造れる”と云っているが本当ですか?と質問があった。私は、“つくるくらいは造れるでしょう。しかしそれが売り物になるかどうかは別な話です”と答えた。ついでに「良い行政をやって下さい。そのためには、皆さんが直接製造現場を視察することが大切です」と申し上げた。 このように、「設備さえあれば半導体は造れる。そのため、設備投資が出来ることが重要な条件」ということは、業界の常識の一つになっていたと云える。
 この常識が如何に根拠のないものであるかは、防塵服を着て実際の生産現場に入ってみれば一目瞭然なことである。問題は、現場で展開されている事実を見ようとしないことにある。それは技術革新の申し子であり、それによって空前の繁栄を甘受してきた業界の人達にとっては、“半導体は普通の生産現場と違う”という意識のもとで、生産現場での“ちみちみ”したことなぞは、取るに足りない“半導体は普通の生産現場と違う”こととして、鷹揚に構えていることにある。
 しかし、「塵も積もれば山となる」の諺のように、仕掛や人の動作、さらには設備の個々の無駄は些細なものであっても、それらが全職場を覆いつくすと工場全体が無駄のかたまりになり、全体として健全に機能しなくなることは自明の理であろう。このくらいのことは、誰が考えても異論はないはずである。それでも“半導体は普通の生産現場と違う”として、この問題に果敢に挑戦しようとする機運が、いまだに盛り上がってこない。
 それは、過去に空前の繁栄を甘受してきた人達には、現在も依然として当時の気分を断ち切ることが出来ないように見える。常に感じることであるが、“生き物は今食べるに必要な分しか働かない”とした、生き物としての人間の本生の根深さ執拗さを、今更のごとく感じる。今は何とか食を繋ぐことが出来ている。しかし、それも風前の灯である。自らが置かれているこの危機を、しっかりと目を見開き、直視してもらいたいものである。

以上


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