発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 7月15日発行 第142号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「半導体事業の再生(2)」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「半導体事業の再生(2)」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

1) 生産現場の仕事は請負者の仕事
 半導体業界の常識の非常識の第一テーマとして、“生産現場の仕事は請負の仕事”を取り上げたい。先ず初めて半導体工場に入り驚いたことは、事務所会議室には沢山社員がいたが、防塵服着用した現場の作業者は殆どが、派遣社員の請負者であった。
 生産現場は設備と仕掛品によって満たされ、複雑で実際に品物がどの様に動いているのか、全く見当さえつかない有様で、私の質問に対して案内の正社員では判らず、派遣社員のリーダを呼んで一々聞かなければならない状態である。一見して、そこで働く人達には高度の経験と技能が必要なことが解る。にもかかわらず、こんなに複雑な生産現場を他人任せで、本当に大丈夫なのかと不安になった。
 何回か生産フロアー内に入るに従い、私なりに生産現場の実体を理解することがてきたが、それは通常の生産工場の常識でとても理解できないことが平然と行われていた。通常の生産工場はデリバリーを完遂することを軸に、全体の管理が機能している。即ち部品欠品や設備故障、作業者の欠勤等いろいろな障害の中で、苦労しながらその日の生産計画を全うしようと努力する。
 しかし、半導体工場では設備を動かすことが、工程管理の最優先事項であり、デリバリーは二の次になっている。そのため作業者の仕事は、その設備に仕掛けられる仕掛品の所在を探り、それを引き寄せて設備を止めないように仕掛ける。その結果、不必要な仕掛品を沢山つくり、品物は山ほどあるが欲しいものがないという結果を招いている。
 このように、半導体工場の管理の基本的な構造は設備稼働優先であるが、市場と製品が繋がっているかぎり、当然デリバリーのプレシャーから逃れることは出来ない。設備への投入時と加工終了時には、その都度ホストコンピュータに入力している為、その設備に仕掛けられる仕掛はどの設備にあるかは、コンピュータ上ではわかる。しかし、デリバリー上で必要な仕掛品がどの棚にあるかは置いた本人か、常にそこに居る派遣社員でないと判らない。そのため、デリバリー管理は現場にいない管理者や正社員は手を出せず、結果的に派遣社員によって、可能な範囲でやっとデリバリーが維持されているのが実情である。
 その形態は言うまでもなく、“マーケットイン”とは程遠く、典型的な“プロダクトイン”の生産を続けている。結果は酷いもので、リードタイムは三ヶ月、過剰な設備投資、悪い歩留、収支は余程景気の良い時以外は殆ど赤字が普通と云った有様である。
 このような状態は、業界が本来目指した姿ではないはずである。現在では半導体事業は難しいものの代表格になっている。設備投資が膨大で回収出来ない、市場の相場変動が大きい等いろいろな理由が挙げられているが、一向に事態は改善されない。正さなければならない真の課題は、大切な生産現場を他人に任せっきりで、平然としている業界の体質にあるように思う。次号では、この体質について掲載したい。

以上


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