発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 6月15日発行 第140号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「『トヨタ生産方式』佐藤光俊氏著の意議」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「『トヨタ生産方式』佐藤光俊氏著の意議」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

先日何気なく新聞を開いていると、広告欄に何時も見慣れている「トヨタ生産方式」の文字が目についた。しかもその著者は旧来の友人の一人、佐藤さんであった。早速購入し拝見した。その中身の8割方は、かって著者から断片的には聞いてはいたが、その折々の改善活動の様子が、登場人物は実名入りで生々しく記述されている。
 もちろん、その登場人物の多くの人達が、直接間接的に何らかの形で、私ににも馴染みの深い人達であり、当時の熱気溢れた改善優先の日々を、昨日のように思い出した。
 先に出版した私の著書「物づくりが国を支える」の中で、今日の製造業は、当時の多くの人々の、必死の努力によって築かれたものであることを述べた。佐藤さんの今回の著書は当人の実体験を記述したもので、そのことの一端を知る上で、今となっては貴重な資料である。
 現在では社会や会社が、改善をこれ程大切にする雰囲気は明らかに萎んでしまっている。そのことが、現在の日本の製造業の活力を衰退させている大きな原因になっている。最近の仕事の現場の軽視の傾向は驚くほどである。特に生産現場は請負の人達で溢れ、殆どが成行きまかせの無管理状態に近い。当時の現場の自主的な改善活動は見る影もなく薄れ、本社やスタッフの現場を知らない人達による、指図でやっと維持出来ているのが実情である。
 我々のような状況下で改善に従事している者にとって大切なことは、先ず働く人々共に荒廃した生産現場を改善し、その成果と達成感を体感しあうことである。 佐藤さんの著書には、このような貴重な多くの事例があげられ、我々に新鮮な可能性をあたえている。そこで働いている人達が主役であってこそ、我々が目指す「人の成長と智恵を活かす」経営活動が可能になる。
 恩師の鈴村さんが、「トヨタ生産方式が本当に定着するのは、トヨタではなく別な会社であろう」と、当時しばしば言っていた。私もそれは大変残念なことであるが、何となくそのような傾向を感じていた。今になって思うのは、当時既にトヨタ社内に現場離れの傾向と、本社や一部のスタッフよる支配の傾向が芽生え始めていたということであろう。
 人の智恵と成長が活かせる経営上の要点は、他から支配されるのではなく「自分の仕事は自分が主役」ということである。そのために仕事を判り易く、維持と改善に二大層別し、維持業務は仕組に委ね、改善業務のみを管理の対象にすることである。トヨタ生産方式は、そのための最大の難関であったデリバリー業務を、かんばんの仕組に委ねて管理を容易にして、異常と変更管理のみですむようにすることに、経営上の狙いある。
 これは、今後の世界の市場で我々の生き残りを保証する経営の骨格である。我々の任務は、そこに到る為に先ず生産現場を活性化し、そこで圧倒的な経営成果をあげ、その勢いをもって会社の経営活動を改革することにある。それは本来あるべき姿の「製造業の主体は製造現場、即ち生産現場の人達である」ことを実績で示すことであろう。
 そのような会社が、鈴村さんの感じていた、本当にトヨタ生産方式が根付いた会社であろう。その会社はトヨタか他の何所かの会社かは判らない。しかし確かなことは、それ実現を主導するのは明らかに、トヨタ生産方式に共感しその普及に携わっている、我々以外には誰もいないことである。お互いに、このような使命感を胸に頑張っていきましょう。

以上


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