発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 6月 1日発行 第139号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「大企業の危機」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「大企業の危機」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

いろいろな会社の人々と出会いを続けていると、その会社によって特有の雰囲気を持っていることに気づく。例えば人なっこくおっとりし、時代感覚に疎いとか、妙にプライドが高い等。
 以前友人に久しぶりに偶然飛行機の中で隣り合わせになった。彼は30年前までは、或る大手の会社に勤めていたが退職し、現在は自営業を営んでいる。開口一番“あいつらは何を考えているのだ”“まったくバカばかりだ”と云った調子に、かっての同僚の悪口を、誰にはばかることなくまくしたてる。私はいつもの彼らしいと、もっぱら聞き役に徹し、あまり気に留めることもなくやり過ごした。
 ところが先週のこと、新幹線の中で、これまたばったりと彼の悪口の俎上に載せられた一人と出会った。今度は聞き役ではなく、隣り合わせに座り私がもっぱらまくし立てた。時々彼が相打ちをしてくれる。その反応に確かに彼が嘆いたように、今の世の中の実情に対しある種の疎さを感じる。
 世界中の人々が、明日の生存のために力一杯の努力をしている。その考えは現実的であり行動は素早い。日頃からそのような中で生活している私や自営業の友人からみると、かっての仲間達は如何にも鷹揚であり、そのテンポは優雅であり、このせちがらい世で生きていくには、とても心もとなく思える。
 我が国の大手企業は、かっては国の経済にとって大きな影響力持ち、常に衆目を集めてきている。このような会社の中にいると、そこに現実の社会動向と隔離された小社会が形成されている。その中で特有の価値観や行動様式が醸成され定着し、人々はいつの間にかそれに馴染んでしまう。
 しかし現在では、我が国ばかりではなく世界の多くの大企業が、かっての勢いをなくし、新興企業の追撃に晒されている。かれらの市場分野は、かっての利権や規模上有利な大型事業に徐々に狭められてきている。この傾向は当然さらに強まっていくだろう。
 この半世紀、人々の生活様式は個性化にむかって大きく変化してきている。それに伴い消費は多様化し、商品の少量多品種化が急に進展してきている。このような変化にも関わらず、かっての大海に浮かぶ戦艦大和のように、機動力なくその変化に追従出来なくなってきている。
 これは、明らかに組織の老化であり、抜本的な手術を施さなければならない。その改革の第一歩は、これまでの企業文化を断ち切り、世の中の動向を実体験することであろう。時代感覚の希薄化は会社を危なくする。特に大手企業の現状は深刻さが目につく。過去の名声を捨て、じかに世間の動向を自らの肌に受け止め、そこから行動を起こす必要があろう。いわばこれからは、中小や個人企業の時代である。そのような時代感覚が必要であろう。
以上


 バックナンバー
■無断複製・転用・販売を禁止します■
Copyright©Iwaki Production Systems Research Ltd. 2005-