発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 5月 1日発行 第137号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「トヨタ生産方式は災害に弱いのか?」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「トヨタ生産方式は災害に弱いのか?」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

災害時にいつも気になる報道が目につく。このような災害時は、トヨタ自動車の工場の再開は、そう簡 単ではなく時間がかかるだろうということである。これは、全く事実と異なる報道であり、実際は生産現 場をトヨタ生産方式に変えていたお陰で、混乱を最小限に抑えることが出来たのである。この様なこと は云うまでもなく、我々は幾度もなく経験済みである。
 トヨタ生産方式は在庫を持たない生産方式なので、災害時部品が調達出来ないので、在庫を持ってい る他工場に比較して立ち上り遅れると妄想しているのだろう。最近の報道の軽薄さは、この問題ばかり ではなく万事に見られる。これは、実際の生産において部品調達がどのように行われているのか、等 の仕事の現場の実情を理解することなく、“ただ在庫を持たない”という言葉の引用だけで、あのような 報道をしているのである。
 トヨタ自動車もこれまで、先の阪神淡路大震災やいろいろな災害に遭遇してきている。 しかし、これらの危機に対しトヨタの生産の再開が遅れ、世の中の話題になったことがあるだろうか ? 逆にその立ち直りの素早さは、生産関係に従事している人達ならば、少なからず驚きさえ感じてい るだろう。
 その事実を直視して、“在庫を持たないのに、どうして立ち上がりが早いのだろう”という疑問ぐらいは 持ってもらいたいものである。願わくば、ちょっと生産現場をのぞき、その理由を確かめてもらいたいも のである。その理由は、半日もあれば十分理解できることである。
 普通の工場は、トヨタ生産方式の工場に比較して総量として、数倍の在庫を持っているのが普通であ るが、内情は有る物は沢山(例えば3ヶ月分)あるが、無い物は明日の生産分もないのが普通である。 ご存じのように部品はセットで全部が揃わないと、工場は動かせないのである。生産全品目について 何日分も保有することは出来ないため、部品の担当者は毎日大変な苦労して、明日の生産に必要な 部品を追いかけている。しかも、普通の工場は日々に生産品目が変わるため、それに合わせて部品を 手配し追従することは、平常時でも並み大抵な事ではないのである。
 一方トヨタ生産方式は、毎日の出荷に合わせて生産が平準化されているため、日々の生産品目、生 産量、投入の順番が1ヶ月間通して変わらない。(このことが災害時の総ての対応を容易にする重要 な点である)部品については、毎日繰り返される生産に合わせて全部品をセットで、工場内及び部品会 社合わせて平均して最低3日分程度の在庫を持っている。災害時は普通の工場は即停止でも、場合に 応じては、当然これらで生産ラインを動かすことが出来る。
 さらに大切なことは、工場内の物品の管理が常に正確に行われているために、部品に欠品が起こる と、そのままの状態で工場が一斉に停止し、部品が繋がり始めると、工場は一斉に動き始めるように なっている。そのため、部品欠品による影響はその工程のみで、他への影響を最小限に食い止めてい る。このことが災害時の、二次的な混乱の発生を防いでいる。 また、このような災害時に備えて、部品 供給拠点を分散させている等の備えをしている。
 トヨタ生産方式の構築に従事する我々は、世の中の無責な風評に惑わされることなく、日々の改善を 着実にこなしていきたいものである。

以上


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