発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成23年 4月15日発行 第136号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「物づくりへの拘りが利益を損なっている?」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「物づくりへの拘りが利益を損なっている?」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

先日友人から、「為替相場の変動などに遭遇すると、苦労して稼ぎ出した僅かばかりの利益は、あっという間に消えてしまう。生産改善などやっているより、むしろそちらの対応をしっかりやる方が大切ではないか?」と云う議論が多いが、これに対しどうのように考えているのか? との趣旨の手紙をもらった。
 為替相場の変動で、現実に会社の利益が大きく左右されてくると、「日本はものづくりは上手だが」「利益づくりは下手だ」という意見が出てくる。それは至極当然のことだろう。しかし、どうしてもその話には乗れない。百歩譲っても、両方必要と云う程度のことで、もともと両者を二者択一的に、議論の対象にすることがおかしいのではないだろうか。
 両者は次元の違うものであり、それを同じ座標上で比較すること自体無理がある。即ち、物づくりやその改善は、消費者の基本的なニーズである「より良いものをより安く」に応え、利益を創造していくものである。しかし、為替相場や金融の上の問題は、継続的な改善努力に代わり、それらの相場の機を読み利益を得るものであろう。
 前者は長期的で普遍的なテーマであるのに対し、後者は投機的であり個別的である。このことを相撲に例えると、物づくりの強さは、力士の地力の強さであり、投機はその時その時の勝負上のあやに類するものであろう。どちらも勝負の勝ち負けを決する上では無視出来ない要素であるが、地力をつけることを軽視し、地力のない力士がその時々の勝負のあやのみでは、当然横綱相撲はとれないであろう。
 物づくりが上手、下手の議論も千差万別である。この議論をしている論客の皆さんは、“上手”“下手”について、どのようなイメージしを持っているのだろうか? 企業いろいろな変化の中で生きていかなければならない。その変化は、ユーザの基本的なニーズ、“より良いものより安く”の軸上で、様々なニーズが発生している。
 従ってその基本的なニーズに対応するために、普段の努力を継続しながら地力を養い、時々の変化に的確に(あや)対応できている企業が “ものづくりが上手”というのが我々のイメージである。 このような“ものづくりが上手”な企業(地力を養うと同時に勝負のあやにたけた)を目指していくことが改善であり、その具体的な問題については、今回の拙著「物づくりが国を支える」に纏めたつもりである。
 トヨタ生産方式の導入は、単にそれによる生産現場改善にとどまることなく、生産管理を“定常管理”を“異常管理”に持ち込み、その管理に要する労力を圧倒的に軽減することにある。それにより、経営全体の日常業務は標準化し仕組に委ね(仕組の常日頃の強化と改善力の強化=地力を養う)、世の中の変化に対応するための改善、改革事項のみを管理の対象にすれば済むことになる。
 そのことにより、会社業務全体が単純化され、大変判りやすくなり、働いている人々が自己管理できるようになる。いろいろな変化に対して誰からも指示されることなく、自発的に智恵を駆使し、より迅速に外部の変化に対して対応できる。為替変動の問題等は、それを担当する部署が主導して、関係部署と連携して、的確に行動すれば事足りることであろう。

以上


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