発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成22年 10月15日発行 第124号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「日航の再建」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「日航の再建」

岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

 9月末、3泊4日の予定でバンコクに出かけた。3日後の帰り便のためバンコクの空港カウンターでの搭乗手続き時、通路側の席の予約を頼んだ。ところがカウ ンター嬢、にっこり笑って“ハイ承知致しております”とおっしゃる。
 このような対応は始めてなので、どうしたのだろうと思いながら、機内に入り席に座ると、乗務員がつかつかと歩み寄り、“先日の便での食事では失礼しました ”と云いう。 このような対応は、日航では異例の体験であり、これで始めて事情が理解出来た。
 実は、出発時成田の日航カウンターでの搭乗手続きのとき、いつも御手洗いに便利な席をとるが、当日は何故か満席で、三人がけの中の席しか空席がなか った。“困ったな”と云いながら、指定された席に、両隣の乗客に気を使いながら離陸した。
 途中、席を立ちトイレが空くのを待っている間、スチュワーデスと立ち話をはじめた。その内容は日航再建の件で、彼女の話だと、現在事業をどんどん絞り込ん でおり、“私もいつまで働けるか判らない“とのことだった。慰めようもなく、とにかく頑張って下さい、私達も応援しているからと云って別れた。
 さらに、機内の食事時、ビーフシチュウを頼みながら、私が寝込んでしまい食事を出せないで、シチュウが固まってしまった。スチュワーデスは申し訳なさそう に代わりに日本食を出してくれた。私はそれをおいしく頂戴した。
 そのことを、バンコクのカウンターにちゃんと連絡し、私の帰りの便で対応してくれたと云うことである。この彼女らの一途な思いに共鳴。これで日航への私の 気持ちは一変した。これから、日航便を最優先で予約する。
 事業の再建の常套手段は、昔からく変わることなく不採算部門の切り離しである。日航も同様に、どんどん職場を切り捨て縮小している。しかし、それは、両 刃の刃で、収入の場を狭めている。このようなやりは、当面の収益の改善をめざすもので、本当にその企業が蘇生できるかは、必ずしも定かではない。
 企業の蘇生上大切なことは、銀行家や本社側の判断による、先ず「不採算部門の切り離しありき」ではないはず。大切な点は、その職場で働く人々に、再建の 為の条件を提示し、それを満たすための改善活動に、従業員一人一人に参加してもらうことではないだろうか。
 企業の再建は、簡単でない場合があることは承知の上だが、今回のバンコクへの旅で、私が経験したような、当事者達の一生懸命な努力が、不採算部門整理 の名目のもとに、一瞥されることなく、簡単に葬り去られるのは、如何にも忍びないことである。


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