先日久しぶりに友人から電話をもらった。彼の話は、長年勤めた会社を辞職し、仲間とOA関係の修理の会社を、立ち上げるということであった。もともと、会社に勤務中は、彼はいわゆる本流からはずれ、その仕事に近いことをしていたので、新しい会社を始める上では、実質的には充分条件をマスターしていることになる。
彼は、その企業集団の中では、トヨタ生産方式の導入には最も熱心で、その中心的な存在であった。しかし、彼のように仕事にこだわりをもち、どちらかといえば世渡りは二の次の人材は、いつの時代でも、どこの会社でも報いられない場合が多い。要はその時々の経営トップ次第である。
現在の我が国の企業の経営者にとっては、会社を維持発展させるということは、決して容易なことではなく、相当の覚悟と努力が必要である。そのような経営者にとっては、彼のような人材は、得難い戦力である。
しかし、多くの経営者は、経営に対しての責任感や理解力は、信じられないほど浅く平凡である。かって恩師が、四面楚歌の中で苦労している弟子達をみて、“トヨタ生産方式を教えたことが、彼らにとって本当に良かったのか”と心を痛めていた。このことは、50年前と少しも変わっていない。
今回の新会社立ち上げは、彼らには正に“災いが福に転ずる”であった。製造業の中では、デリバリー、品質、原価をきっちり守るということは、大変なことであり、ほどほどの仕事ぶりの中では、決して実現できないものである。特に品質においては、徹底的な追求力を必要とし、ほどほどの取組の中では、決して良い品質のものはつくれない。
世界中で膨大な製品が生産され、市場に供給されている。しかし、それらの生産工場では、唯検査による程度で品質を本当に保証するための努力は、殆ど見ることが出来ない。この傾向は今後益々強くなっていくだろう。即ち不良品込みの製品が毎日生産され、膨大な量が市場に供給されていることになる。このことは、彼らの修理業なくしては、この生産販売の仕組は成立しないということである。彼らにとっては、成長産業の真っただ中にいるということである。
さらに、その仕組に踏みとどまる条件は、上流の工程の“ほどほどさ”を補うための“本当の問題への追求力、仕事ぶり”であろう。具体体的には、再修理は皆無、修理手番3日以内、修理費格安を実現することである。これらは、会社在職中では発揮出来なかった彼らの得意技である。
本物の力を持つ者には、いつの時代でも必ず生きるための道は開けてくるものである。彼の新事業、修理業そのものは、決して目新しいものではなく、どちらかと云えば日蔭的な存在である。しかし、“再修理は皆無、修理手番3日以内、修理費格安”の新たな条件は、在来の製品に新たな機能を加えることにより、その製品がリバイバルするのと同様に、修理業に新たな社会のニ―ズを吹き込むことに相当する。これは、現在の社会における、新たな市場の創出のための試みであろう。大いなる期待をもって、かれらの健闘ぶりを見せてもらいたいと思っている。
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