人々が誰からも指示されなくても「仕事が判る」こと。またそのことがすぐ「実行出来る」ように仕事の環境を整備しなければならない。
この環境づくりのため、日本流のマネージメントは、「経営思想の浸透」と「実際の現場でのコミュニケーション」の二つを重要視し、前者は長い期間を通して人々の考え方や行動をマネージメントし、後者は今進行中の仕事の進行をマネージメントしている。そのために経営者は率先して行動している。
ここで引用した会社の例は、創業期の経営思想を継承しながらも、実際の行動の上で欧米化(設備化)に走り挫折した。そこで現在の社長が、創業時の経営思想に、会社の行動を回帰させることによって、再生に成功した例である。その基本的な経営思想は、「企業は公器である」「その発展育成上の武器は、従業員全員の経営参加とその智恵と成長に勝るものはない」とうことである。
新光電気の例を通じて、下記の三項目につき注目して頂きたい。
1. この会社を支えた三人の経営者はどのようにして、会社を良くすることの目的と具体的な目標を 従業員に浸透させてきたか
2. どの様な経営思想を、どのようにして従業員に浸透させてきたか
3. 具体的な手法はどのように変わってきたか
実際の例では、会社を良くする目的と目標を共有し、経営思想を継承しながらも、半導体事業進出時の行動として、“設備が必要”として、従業員の智恵ではなく、設備を選択した。その結果、沢山の人間が設備に使われ、居るだけになった。居るだけならば他社と同様に、人件費の安い海外に流出ということが現実の問題になった。
そこで、先人から継承した「皆の生活を守る」「質素倹約」「限りなき発展」に、現実の行動を復帰させた。それは、設備より先ず人間の智恵を尊いものとして、大きな投資が必要と云うことを、従業員の智恵で最善の解を見出すことを、主としたトヨタ生産方式への転換である。
トヨタ生産方式は日本流経営思想の生みの親であり、育ての親である。従ってトヨタ生産方式への転換は、日本流の経営への回帰を意味する。トヨタ生産方式が根付かない最大の原因は、大多数の経営者がこの転換ができないことにある。幸い黒岩社長は、自らの体内にしっかりとこの思想と行動を持っていたため、見事にその手法を改めることが出来た。
設備に頼ると、働いている人達が力を発揮できず、設備の能力(実質的には設備設計者の能力)に閉じ込められてしまう。そのため、人間の持つ無限の可能性が物つくりに参加出来ない。
以上
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