発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成22年 7月 1日発行 第117号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「欧米流管理の限界」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「欧米流管理の限界」

滑竢髏カ産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

 皆が働かなくなってきている。前回指摘したようにその原因の多くは、これまでの日本の産業を支えていた伝 統的な仕事の仕方から、欧米流に変わってきたことにある。自動車業界における日産のゴーン改革等は、そ の典型的なものであり、一時的には成果を上げながらも、本質的な競争力強化には至っていない。
 またその効果も、日本流の経営風土があったからこそ、コミットメントを中心とした経営が機能したのであって、 この風土そのものまで否定してしまったのでは、その成功はなかっただろう。最近見られる過度の本社での集 中管理は、仕事の現場の活力を、著しく減退させている。
 日本流の経営の特徴は“あんうん”の関係で人々が仕事をすることに代表されるように、“コミットメントしチェッ ク”と云った類の仕事の仕方ではないだろう。またこのことが、“責任の所在が不明確だ”“仕事が徹底しない” 等の批判を受ける原因にもなっている。しかし、一概にこの批判か妥当かどうかは甚だ疑問である。
 そのような批判をする人達は、“会社は給料を支払っているのだから、その代償として働くのは当然である”と いう認識を前提にしている。しかし、これは欧米流の考え方で、日本流は上からの指示でも“納得しないと本気 ではやれない”という事情がある。どちらを選択するかは自明の理であるが、日本の管理者や経営者、または 本社等の所謂管理する側は、“指示したことを本気でやれ”ということを求めている。要は自分が指示したこと が納得してもらえるかどうかについては、配慮もしていないし関心さえ持っていない。
 指示される側は、“欧米並みにお金さえもらえば、自分が納得するかどうかは別問題”というほど、日本では割 り切が出来ていない。また割り切れない事情がある。それは、“それでは会社がうまくいかない”“もっとこの方 法のほうがうまく行く”という思いを断ちきれないことにある。
 なぜならば、指示される側も、指示する側と全く同様に“会社をよくする”という同じ土俵上にいるからである。即 ち生活の基盤が会社の存続にあり、そのために長年働いてきた。これからも働こうとしている。上司の指示を 忠実に守り、その代償として給料を頂くなど考えて入社した人はいないだろう。
 現在は、仕事は専門化されその変化も急である。そのため、これらのことを本社や特定の人で、一元的に集中 管理することには当然限界がある。さらに、その会社の成否に確たる責任も確信をもって指示を出しているわ けでもない。要は、“俺の言うこと”“本社の云う事を聞け”と云うことの方が圧倒的に多い。
 彼らの本来の任務は、他の人を管理し何をさせるかではではなく、“皆が力いっぱい働き”“しかもその働きが、 会社目標に向かって一糸乱れることなく統率出来ている”ようにするために、自らが何をしなければならないか を、自己を管理することではないか。
 “皆が仕事をしな”ということを無管理や終身雇用等の甘やかし的なことが原因で、もっと厳しく管理監督を強 化しなければならないと、何故そのような発想をするのだろう。このような発想は製造業の現在完全に精彩をな くしつつある欧米流の管理を模範にし、それに追従することにどれほどの意味があるのか?言うまでもなく、そ れは今までの我が国の強みを薄め、競争力を欧米並みにするばかりである。このことを本気で反省し、新たな 組織づくりと運用に向かって、現在のマンネリ化した経営を改めなければならない。
 以上



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