この言葉は、しばしば耳にする馴染み深い話である。これは、まったく根拠が無い話ではない。トヨタ生産方式の生産現場では、確かに多くの人材が急に成長する。この生産現場は、人の成長にどのように関わっているのだろうか?
一般的に人は、行動することによる外部との接触によって、肉体、五感が刺激を受け、それに対する対応力が強化され成長する。そのため、人は行動しないと成長しない。
そのような視点で、トヨタ生産方式と普通の生産現場を比較してみると、はっきりした違いが目につく。先ずトヨタ生産方式では、人々が日々改善すること、また成長することを前提に組織がつくられ、運用される。そのため人々は、管理者や周りの人の、密接な接触が維持され働いている。
普通の生産現場は、現状維持の、成り行きまかせが多いため、実際に改善活動の必要はなく、刺激的な接触は殆どない。この違いは、当然人の成長に大きく影響していることが予想できる。
しかし、人材が育つ要因は、このような人間関係の違いばかりではなく、両生産現場での人の能力に対する評価基準が、異なる点も無視出来ない要素である。トヨタ生産方式の生産現場では、直接行動し成果を上げる人が、優秀な人であり、能力のある人と注目される。
しかし、普通の生産現場では、これらの人材は必ずしも同じように評価される保証はなく、目立ちがり屋の跳ね上がり者として、逆に敬遠される場合さえ多々ある。このことは、生産現場そのものより、その会社の経営姿勢の違いであろう。
トヨタ生産方式は、昭和20年代の終戦の荒廃の中で芽生えた。この時代は日本が、明日食べることにさえ難しい、大変な時期であった。人々は、必死で食を求めて働いた。その結果、今日の繁栄を築いた。国の皆が一生懸命にはたらくことを普通としていた、この時代にトヨタ生産方式の日々改善のルーツはある。
最近、トヨタ生産方式の現場で、人が育つことが話題になることは、過去の成果の甘受に浸り、問題解決に積極的に挑戦しない、現在の多くの会社の経営の在り方が問われ、当時の真剣な経営姿勢に回帰しようとする、大切な兆しではないだろうか。
現在の安泰な日々は、いろいろな危機の上に流浪している。今に安住することなく、身近に潜在するリスクを事前に感じ取り、確実に対策を講じていくことこそ、現在の多くの企業にとって大切である。その危機は、組織のマンネリ化そのものであり、マンネリ化は社会の変化への対応力を弱める。蘇生の為の特効薬は“全員参加による日々改善”であろう。
以上
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