発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成22年 5月 1日発行 第113号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「八十歳からの伝言」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「八十歳からの伝言」

滑竢髏カ産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

 或る先輩に久しぶりに電話をした。いろいろな話の中で、年齢のことが話題になった。その先輩曰く「わしも、ついに80歳になった。しかし80歳になってみると、何もかも素晴らしいし、美しい。」とおっしゃる。まさに仏の心境である。
 さらに続けて、「そのためにはそれなりの条件があり、誰でもそうとは限らない」という。その条件は、「一つは現在も世の中のためになるために働いていること」。さらには、「それに賛同し一緒に働く仲間がいること」。さらに最後は「恋をしていること」。の三つがあるという。
 特に恋をしている件については、「君には関係ないことだろうが、恋は若いころと異なり、セックスとか金銭抜きの恋だよ」とおっしゃる。80歳近い年齢で、しかもあのハイセンスの先輩の、恋の相手をしてくれる女性が本当にいるのだろうか? 事実としたら、彼は余程、運の良い人であろう。
 この恋の問題と、80歳の現在も働いていることは、先輩のおっしゃる通り事実である。しかし、協力者がいることや、世の中のお役に立っていることについては、先輩の事情が特別際立っているとは思えない。彼には失礼であるが、客観的にみて誰でも経験している程度であろう。
 しかし、考えて見ると彼が特別視している、その三つの条件とは、特別なことではなく、今現在の彼の現状に他ならないのではないだろうか。大切なことは誰が何と評しようとも、彼自身が自分の日々をそのように受け止め、そのような心境にあることが大切なことであろう。平凡な事でも、それを自分だけに授けられた特別のこととして、十分満ち足りた心境になり得ていることに、他人事ではない共感を感じる。
 昔からの彼の生き方を知る限りでは、何事にも常に手抜きすることなく、物事に挑戦し続けてきている。その長年の生き方の結果が、何事にも心の拠り所を感じ、満ち足りた日々を過す、今の心境に至っているように思う。
 自分のことになると、先ず80歳まで元気でいることが出来るかが、第一の問題であり、それに対する不安とあきらめが先行し、とかく目先のことに拘泥し過ぎていることに気づく。先輩の電話は、健康である今の日々を、課題に全力を投入し、生き抜いていくことの大切さを、身をもって示唆してくれた、私への貴重な伝言であった。
  以上




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