発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成22年 2月 1日発行 第107号
 ― 目 次 ― 

  
 連載コラム「これはおかしな話、しかしそれが今の常識」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



「これはおかしな話、しかしそれが今の常識」

滑竢髏カ産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

先日、指導先での話である。「市場のあるアナリストが、A社は改善を中心にやっているが、B社は積極的な投資をしているので、この業界で生き残れるのはB社だけだろう」と書き立てた。その結果市場は敏感に反応し A社の株価は急落した。 現在の世の中で、この話はおかしいと受け止める人が、一体何人いるだろう。
 実は、ことの真相は、A社は改善によって、現有人員と現有設備で現在の倍までの生産量を生産することが出来るようになったので、そのような無用な設備投資をする必要がなかっただけのことである。私はB社の内情は知る由もないが、A社の状況とは相当異なることは容易に推察出来る。
 両社のこの違いが経営上どのように影響するかは、決算書を見れば一目瞭然である。A社は、余剰資金、利益率、在庫回転率等総ての点で、他社を圧倒している。
 しかし、それは、“現在は良いが将来が問題”と云うのならば、両者の各数値の過去数年間の改善率や成長度を比較すれば解る。実際の会社を視察するまでもなく、この程度のことは決算書だけでも判断出来る。その分野の専門家を自認する人達でありながら、録に分析することなく、軽々しく発言することも問題であるが、それを容認している多くの人達がいることの方がより深刻である。
大切なことは、これまでに投資された資金、また投資しようとしているものが、実際仕事の現場でどのように生かされているかである。果たして彼らは、そのような観点で、投資の行き先に関心を持ったことがあるかと疑いたくなる。
 もしその資金が、無駄な設備や効果的でないものに投資された場合は、たちまち過剰投資になり、会社は窮地に陥る。実は工場の関係者さえ、この点に関する点検や検証が甘く、事あるごとに、設備や工場に投資するしか、他に方法がないと考えている。
 しかし、実態は設備投資どころか素手で、現有の設備の使い方や、少しの改善を加えるだけで、現状の2,3倍の生産をする方法は幾らでもある。A社も数年前までは、世間並みに設備投資を繰り返してきていた。その結果、借入金は増加し、その回収に行き詰まった挙句、新たな投資より現有設備を使いきることに、新たな活路を見出したのである。現在では社長を先頭に、全員で生産性の向上に向かって、日々改善を積み重ねている。
 これからの世界で生き残れるのは、B社の類ではなく、A社のような取り組みが出来る企業のみであることは明白である。特に無用な設備投資を繰り返してきた半導体業界は、B社の類の典型的な例で、現在の投資規模の拡大を前提にした延長線上には、この業界の再生はないだろう。
                                                              (以上)


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