連載コラム

第161号「現場で過ごす時間」岩城生産システム研究所岩城 康智

 私は今まで製造業で過ごし、振り返ってみるとこの四半世紀は大きな変化あった。その変化の中で私の周りでは、いくつかのビジネスが消えて行き、その反面生き残って行き、時には大きく成功しているものがある。この差はどこにあるのか、それは環境の変化に組織が的確に対応できているかにあると思う。
 ビジネスが変化を求めているのはどのような時か、それはまさにビジネスが壁にぶつかっている時で、この時のイメージは潮にさからう船のようなものだろうか。前には進まないのだが漕ぐ手を休めれば直ちに波に飲み込まれてお陀仏となる。このような時に私は現場で一日の大半を過ごすことがある。この時の現場は私にとっては心を許せる兄弟であり、同時に叱咤激励をくれる厳父である。このようにいわゆる現地現物の中に自分を置くことにより、解決のための方策や、それを推進するための勇気をもらうことができた。
 一人の力は小さく、あまりにも無力に思える時もある。しかし多くの人々の力が集まれば、解決出来ないことはない。それを感じ実行する方策を考える場所として、現場で過ごす時間は有効であった。
 この様に製造者として現場はビジネスの根であり、それを養う土でもある。
 最近大手半導体会社が製造拠点をすべて売却ことになった。この決断をするにあたり、トップはどれだけ現場を訪れたのだろうか。現在の高度に複雑に変化している世界環境の中で、求める答えは現場にあると思う。それを怠り安易に流れる経営は企業の将来性を摘み取り、存続を阻害することになる。  また、それを生き残りのための選択と報道するメディアも勉強不足である、製造をやめてしまい、根無し草になったメーカーがまだ生きていると言えるのか?
 笑止に値する。