発行者 岩城生産システム研究所

 編集者 IPSインターナショナル
   平成21年8月15日発行 第096号
 ― 目 次 ― 

  
 「海外生産は高くなる」 岩城生産システム研究所 岩城宏一



 「海外生産は高くなる」

滑竢髏カ産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一


 最近は、だいぶ事情が変わってきていますが、人件費の安い海外への生産委託の誘惑は、依然として断ち切れないものです。前号で、生産を海外に移すことは、生産のリード手番を長くし、経営活動の機動性を損ない、特別な場合は別として、決して得策ではないことを述べました。しかしこの比較は、従来の生産の手番を数分の一程度に短縮することが、その前提になっています。

 しかし、多くの生産現場では、生産のリードタイムについては、あまり問題視することなく、殆ど成り行き任せになっている。このような状態では、経営活動の機動性を左右する重要なことでも、問題とし顕在化しないのは当然であります。そこで、生産現場を改善することを前提にして、海外生産との価格の比較をしてみましょう。

 製品によって、途上国の人件費の効果は千差万別でありますが、少なくとも自動車部品、電気製品等の分野については、国内の生産拠点を改善する方が、確実に海外より安価になります。その根拠は、以下の点にあります。身近な製品について、皆さんも検証をしてみて下さい。

 先ずこれらの分野の総人件費は、高くても売価の30%程度。しかも直接人件費はその50%以下、即ち一例として、売価1000円のものでも、150円が直接人件費と言うことになります。途上国の直接人件費が、日本の1/10としますと、海外生産に移すことにより150円が15円になり、殆ど無視できる程度になる。このことが、多くの人が海外生産に惹かれる理由ではないでしょうか。

 しかし、皆さんも体験していることですが、現状の3〜8倍程度の生産性を改善することは、それ程難しいことではありません。これによって、150円の人件費が50円〜20円程度に軽減することになり、直接人件費上では、実質的には期待した程の効果は出ないことがわかります。

 逆に、海外による経費増があります。先ず目に付くのが輸送費であります。先の1000円程度の物では国内では、通常5%(50)円程度であります。これを東南アジア地方に移転すると、輸送費の他に税関手続き等の諸費用を含めるとおよそ50%増にはなるでしょう。即ち50円が70円程度になり、その差額は逆に10円程度高くなります。

 その他に、製品の売れ残りや部品の使い残しによる残材。品質不良品の償却費用等は、通常は他の残材と一括処理されている場合が多く、表面に顕在化していないが、個々の品別に割戻してみると、その額は予想以上に大きいのが普通です。

 さらに、海外滞在費や出張費等々も無視できない経費の増分であります。これらの諸経費を積み上げてみると、一般的には海外生産への移行は、経営上で得策ではないことは一目瞭然であります。もし皆さんも一度検証してみるとよいでしょう。      




(以下次号)





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