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発行者 岩城生産システム研究所 編集者 IPSインターナショナル |
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平成21年8月1日発行 第095号 | ||||
― 目 次 ― | ||||
◆ 「海外生産崇拝の根は深い」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一 |
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滑竢髏カ産システム研究所 代表取締役 岩城 宏一 |
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“世界の生産拠点は中国だ!”とばかりに、2000年の初め頃、日本中が国内の生産拠点を、一斉に中国を中心とした海外に移転した。その結果は言うまでもなく惨憺たるもので、多くの企業が多大な犠牲を強いられてきた。 そのような経緯を経て、やっと最近はその傾向も沈静化してきているように思っていたが、最近また同じようなことがあちこちで取りざたされている。世代の交代によるためか、貴重な失敗が活かされることなく、次々に同じようなことが繰り返されてくる。その根強さには、ほとほと根負けしそうである。 この現象は、生産現場または生産活動に対する無理解ばかりではなく、会社経営そのものが、形骸化してきていることに起因しているように思う。その経営の弱体化は、目の前に顕在化している諸問題に対し、有効な行動を起すことなく傍観することが多く、ときには、自らが新たな問題を誘発さえしている場合がある。 製造業の企業活動の実体は“売れる物を開発して造って売る”に集約される。この一連の活動の中で“造る”は、他の知的またはソフト的な活動を、具体的な資源に変換する重要な機能を分担しているため、生産工場の弱体化は、単に生産活動のみならず、“売れる物を開発して造って売る”の企業全体の健全な機能を阻害することになる。そのため、ことさら生産活動のみを切り離して扱うことは出来ないはずである。 例えば国内生産でのリード手番は2〜3日程度のものでも、海外に生産を移したとたんに、その手番は短くても20日以上は伸びることになる。そのことは、単に生産の手番の問題に留まらず、経営の機動性を急激に損なうことを意味し、経営活動に及ぼす影響は計り知れないほど大きい。特に世界中が、大きな変動に晒されている現在では、会社の存立を危うくする十分な要因になる。 経営の最前線では、このような危機感は否応無しに実感することあるが、経営者の現場からの遊離は、重要な経営感覚を鈍らせてしまっている。苦しい経営を蘇生するためには、生産現場に限らず、先ず仕事の現場へ立ち戻り、真の会社の課題を自らの五感で感じ取ることが必要であろう。 その第一の着点として、経営活動の要である生産現場の改善強化が、もっとも現実的で効果的であるように思う。その理由は、改善の対象や効果が具体的でわかり易く、多くの人が参加し易い。さらに、その効果が他部署の業務改善の基点になり、全社に波及し易いためであるが、現実は経営担当者のみならず、直接の管理監督者さえ生産現場に足を向けず、依然としてこの問題に対する関心は薄い。例えあっても、“そんなことは賃金の安い海外に依頼すれば良い”程度であろう。 先日ある工場を訪問した。この会社は数年前、瀕死の重体からトヨタ生産方式よる生産革新によって、見事に蘇生した工場であった。それが、2〜3年の間に急に生気を失い、工場閉鎖の危機に直面している有様である。 しかし、私の見る限りでは、この工場の内部には、依然として強い生命力が燃え続けており、その工場ばかりではなく、本社を支えるための十分な収益力を持っている。問題は、そのことを洞察して、その潜在力を収益として顕在化するための機能が作用していないだけである。 その機能は、一般的には経営担当者の任務に属しており、特に中央集権型の組織では、そこによる制約が強く、生産現場はほとんどその支配下に従属した形になっている。この工場も例外ではなく、そのことが災いし、自らの窮地を招いている。もし、自分達の持っている卓越した力を背景に、それを活かすために、従来の組織権限の枠を越え、積極的に経営に参加し本社を動かしていけば、この窮地を招くまでもなく、本社の経営の選択肢も随分違ったものになったことが容易に推測できる。 現在のいろいろな問題を解決していくためには、会議室や資料ばかり事を済ますのではなく、皆が仕事の現場に立ち帰り、現地現物を直視しなければならない。その最も効果的な着点は生産現場にある。従来の生産を従属化した組織の慣習を改めるためには、大きなエネルギーを必要とする。 しかし生産工場のトヨタ生産方式の転換は、そのエネルギーを補うための十分な成果を挙げる。それを活かし、生産部門が積極的に経営に影響力行使することである。そのことが、実質的に経営が現地現物に立脚して行なわれるようになり、また会社の基本機能である“売れる物を開発して造って売る”が正常に機能することに他ならない。 私は現在多くの会社でトヨタ生産方式の普及に関わっている。しかし、振り返ってみると、多くの経営者達との密接な接触を通じ、その会社の経営活動に、かなり大きな影響力を行使し、またそれが受け入れられていることに気付く。経営への提言の特徴は、常に“生産現場をこのように我々に改善させて欲しい”“または我々がこうするので、関連部署はこのように協力して欲しい”と言ったもので、その行動の主体者は常に自分達であり、自分以外への注文ではないことである。 常に自らを行動の主体者と自覚し、行動することを前提に経営に積極的に提言し、成果をあげることが必要である。そのことこそ、“売れる物を開発して造って売る”の要の“造る”を担当する生産部門の任務であり、また会社改革の先頭に立つことであると思う。 私は、先の工場の関係者のみならず、生産革新を進めている皆さんに、「“勇気もって会社改革に立ち上がれ、自分達の将来を他人の手に委ねてはいけない。自分達の運命は、自らの手で切り開いていかなければならない」ことを、強く訴えたい。私はそれに向かって限りなく声援を送り続ける。 以上 |
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