発行者 岩城生産システム研究所

編集者 IPSインターナショナル
   平成21年4月1日発行 第087号
 ― 目 次 ― 


  
 「母校を訪ねて」 岩城生産システム研究所 岩城宏一




 「母校を訪ねて」

滑竢髏カ産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一


 3月も間もなく終わろうとする日、母校大分工業高等学校の創立記念行事に参加のため、久しぶりに大分市に出かけた。一泊二日の予定で、前日の午後4時過ぎに博多から大分駅に着き、駅から竹町の端にあるホテルに向かった。

 この道は高校時代、いつも通った通学路である。朝は学校の始業時間を気にし、帰りは三重町までの列車の時間を気にしながら、かばんを小脇にして走った道筋でもある。あれから約50数年過ぎた今の街は、当然のことながら、当時とすっかり変っている。

 昔の駅前の電車通りの歩道を歩き、左に曲がり竹町に入った。何をする様子でも無く、角の洋品屋の前にいるおばあさんを見かけ、ホテルの場所を尋ねた。ついでに立ち話をはじめる。この店は創業100年にも及び、彼女はこの店で生まれ育ったそうだ。

 と言うことは、当然この店も彼女も、当時もこの場所に存在していたことになる。急に懐かしくなり、店の様子と彼女を改めて窺がう。確かに現在風に、店は改装を重ねているが、当時の面影が随所に残存している。懐かしそうに立ち話の相手をしてくれている彼女は、当時は店の奥で生活していたのか、さすがに特別な記憶は無い。しかし、店のたたずまいと調和し、確かに半世紀にわたり、この店と共に生きた雰囲気を纏っている。彼女にお礼を言ってホテルに向かう。

 6時過ぎに友と連れ立ち、夕食のため約束の店に向かう。今夜のメインデイッシュは、活魚の関アジである。最近は乱獲がたたり、名物の関さばが少なくなったそうだ。子供のころは、魚は関さばや関アジしか知らなかったが、今では貴重品である。口に入れると、特有のこりこりとした歯応えや脂身の味が、昔の食感を取り戻す。

 仲間達と夜遅くまで過ごす。郷里の柔らかい空気に浸り、安らぎと満足感を覚えながらホテルに帰る。どっと疲労を感じる。至極当然のことで、今日一日の行動は、自分の年齢と体力を遥かにこえている。日中は街中を歩き回り、夜は夜で遅くまで、仲間達と大声で怒鳴りあう。その喧騒は、回りの人たちにさぞかし迷惑であったろう気遣う。お互いに、声が出ない、耳が遠いことを実感している。必然的に体力と気力が続く限り、大きな声を張り上げ、友の声に一生懸命に耳に集中する。70年近く、一生懸命に同世代を生きてきた同級生達である。 

 街の変化と共に皆な歳を重ねてきている。一般的には“老いてきた”ということであろう。しかしそれは特別な道ではなく、世界中の皆が歩いている人類の道であり、幸せの道でもあろう。


 翌日、友人共に母校に向かう。校舎は春日浦から現在の地に移転してきている。しかし懐かしい図書館と、玄関前の大きなさてつの植え込みは、昔のままである。校長先生に従い体育館に向かう。そこには、凡そ50年の隔たりをおき、その道を歩いている約800名の後輩達がいる。

 人は、理性のまえに感性が働き、その理性を支配している。そしてその豊かな感性が、人の一生の在りようを導く。高校時代は、感性の育くみから知性や知識の習得に移る時期であろう。 習得した知性は、時とともに消滅し、新たなものに入れ代わる。しかし、感性はその人の個性であり、その人の“人なり”であり、人の一生を支えている。

 後輩達は、幸い大学進学という負担から開放され、より自由である。自らが興味をもち、求めるものに臆することなく挑戦して、感性を磨きそれを研ぎ澄ませて欲しい。必要な知識は、必要なときに学習すれば良い。

 昔は学習の機会は、主として大学などの教育機関に求めるしかなかった。しかし、今やその機会は、TV、出版物、博物館、美術館、旅等々日常の生活の中に溢れている。その規模や充実さ、新鮮さ、また学習効果は、個々の大学の持つものを、遥かに越えている。大切なことは、それを必要と感じる感性と行動力であろう。

 現在社会の国際化の進展は、これまでの肩書や学歴偏重から、問題を解決出来る真の能力重視に、ニーズを大きく変えてきている。その傾向は益々強くなる。それに伴い、高等学校の役割は大学に進学のためではなく、社会が求める人材育成のための、重要な機関として改めらなければならない。その動向はすでに進行しているように思う。母校のような専門学校の重要性は、益々顕在化するだろう。

 いろいろな風雪の中、大分工業高校の107年の長き歴史をしっかりと守り、維持してくれている同窓生、在校生や関係者の皆様に感謝しながら、また若い在校生達の将来に、大いなる期待を抱きながら空港に向かった。


以上

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