発行者 岩城生産システム研究所

編集者 IPSインターナショナル
   平成21年2月15日発行 第084号
 ― 目 次 ― 


  
 「トヨタ生産方式は“普通のことを普通に行う”」〜友人からの手紙 岩城生産システム研究所 岩城 宏一




 「トヨタ生産方式は“普通のことを普通に行う”」
          〜友人からの手紙〜

滑竢髏カ産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一


 先日友人から手紙が届いた、その中で、トヨタ生産方式について、表題のようなコメントが書かれていた。この言葉は、世の中でいろいろな場合で使われており、トヨタ生産方式が話題になり、その折の季節の挨拶程度、また実際の仕事の場など様々であります。しかし、実際の会社経営に携わる人達にとっては、それを“大変難しいこと”として、置き去りに出来ない切実な問題であります。私もその様な言葉には、これまでしばしば遭遇し、そのつど、ある種のこだわりを感じていました。この際、少し掘り下げて、考えを整理してみようと思います。くどくなりますがご容赦下さい。

 「何故皆はそんなことをしているのか。こんなことは当然のことではないか。何故やらない!」そのような嘆きを持たないリーダがいるでしょか?否リーダの任ある人ばかりではなく、人は皆なそんな思いと格闘しながら生きている。あるときは自分自身にさえ向かって!

 この問題の受け止め方は、千差万別であります。実際の経営の現場を預かる人にとっては、それが必要なことであれば、いかにそれが難しい問題であっても放置できず、現実に出来るようにしなければなりません。しかし、これを実際に実現しようとすると、確かに大変難しい問題であります。

 何故それは難しいのか? 言葉の段階や一般論としては、“普通のこと”としてすんなり通るが、いざそれを実行する段になると、優先順位は人によりまちまちで、たちまち議論百出になる。それを無理に強要しようとすると、納得できていな事を指示され。やらされる関係になるため、仕事を行なうことより、他の人に強要され、拘束されることを避けようとする。結果的に仕事は容易には進まない。

 例えば健康のために禁煙するということは、今では極く普通のことであります。しかし現実に止めるとなると、そう簡単ではありません。仕事の現場を預かっている人達たちにとっては、直ぐ実行することを前提の“普通のこと”でなくてはなりません。即ち行動という基軸上で、疑いなく最上位に位置づけされていることが大切であります。

 このような合意を醸成するためには、辛抱強い働きかけが必要で、一朝一夕にはいかない問題であります。 “対話をしながら行動する”ことの積み重ねが不可欠であります。場合によってはその努力は数年にわたることは、決して珍しいことではありません。

 世に言う“見える化”は、合意形成上大変効果的な手段であります。しかし、それは、単にポスター的なものにして見えるようにすれば良いというものではありません。お互いの行動をより確実に見取るためのものであり、そのためには活動の場があり、そこで対話が日常的に行なわれていることが大切であります。

 従って、“見える化”の対象は、何でも手当たり次第ではなく、限られたものになり、さらにそれを何時“見える化”するかというタイミングが、非常に重要になります。行動に移すタイミングを基準に、遅すぎても早すぎてもいけない、ということになります。それらを的確に選択するためには、優れた感性と日ごろから行動を共にしていることが必要と思います。

 トヨタ生産方式における“流れをつくり下から引く”ということは、生産現場において、今なすべきことを“見える化”する重要な手段であります。即ちそれは紙に書いて表示する類のものではなく、直接仕事の進行(具体的には品物の移動)が、それを伝える媒体になっているのです。しかも、それをわかり易くし、そのことに体がすぐ反応できるようにして、確実に実行できるようにするため、「生産の平準化」(拙著参照)をしているのであります。

 複雑系を肯定し、その上で物事を処理することは、“見える化”にも限界があり、ましてや、それに従い人が効率良く行動することは、まったく不可能であります。したがって、行動することを前提にした場合、この複雑系を如何に単純化するかが、大変重要な条件になります。

 このことは、トヨタ生産方式に変わった生産現場を見れば、一目瞭然であります。その難しさを克服し、生産現場は整理整頓され、目の前で見事に作業をこなし、品物の動きが大変わかり易くなっているのです。このことは所謂“普通のことを普通に行なっている”典型的な実例であります。

 しかし、その背景には、非凡なトヨタ生産方式の仕組み、即ち“自働化”“ジャストインタイム”“平準化”とそれを定着させるための、人々の忍耐強い努力があることを忘れてはならないでしょう。

 特に“見える化”について補足しておきますと、行動を前提にした場合は、単なる見える化と意味が違い、行動することを前提にした納得化であります。そのため多くの場合、お互いの仕事の進度などの、行動の中で判り合ってるものです。そのためには、体の動きは継続的な訓練よって単純化されている。結果は誰が見ても判るように客観的なものになっているものです。通常の見える化は、あくまでもそのごく限られ補助的手段であります。

 即行動することは、一つの組織の中では、その該当者自身の効率化の問題に留まらず、一人一人の動きの連鎖によって、全体組織が機能している。そのため、組織全体の健全に機能する上で重要な要素であります。特に高度に発達した組織の中では、その連鎖は非常に正確にジャストインタイムが守られている。一例として、トヨタ生産方式での生産ラインでは、お互いの連携精度は、秒単位の誤差であることは珍しくありません。

 いずれにしても“普通のことを普通に行なう”このような会社組織造りは、その任にある人々の重要な責務であり、この不況を突破する上での重要な行動指針であるでしょう。


以上






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