さらに現在の市場は 、少量多品種、変動の上に成立している。このような市場状況は、DRAMとLSI関係を分離したように、少品種多量生産から多品種への対応を必要としている。この市場に追従するためには、これまでの設備重視を改め、小回り可能な簡便な生産工程づくりへと、工場の構造改革を進めなければならない。
このような簡便な生産工程づくりは、人や設備の動きの無駄を無くし、工程の進行、即ち仕事に必要なもののみにすることによって実現できる。このことは、半導体の生産を特別視することから脱し、通常の製品の生産ラインに近づけることに他ならない。
無駄はコントロールが効かないものである。現在のように長い生産のリードタイムも、半導体の生産過程での多くの無駄のもたらす結果であり、市場の変化への追従のため、膨大な犠牲を強いられている。
市場に追従するためには、生産のリードタイムを少なくとも3週間以下に改善する必要がある。この改革は、LSI関係のみならず、当然DRAM工場にも及ぶ。 要は多量生産、多量販売に限界を感じた時点で、DRAMとLSIを分離することに留まることなく、より本質的な生産構造を変えることを、進めなければならなかたはずである。
そのためには、半導体を特別視することなく、通常の製品の生産工程から出発し、“少しでも沢山”“少しでも速く”“少しでも自動化“をする等の二次的なものを除き、工程に必要な機能のみを主眼に、小回り可能な簡便な自らの手造りの生産工程づくりへと、指向を変へなければならない。
多くの製品の健全な生産工程は、その企業の英知を集め、創意工夫を凝らして、自らの手で創り上げていく。それと同じように、半導体業界の変革のためには、各企業は、先ず必要な業務は自らの手で行うことを指向することが大切である。現在の多くの企業に見られるような、“生産は設備任せ”“設備は設備業者任せ”“仕事は請負任せ”の丸投げ的な運用では、生き残ることは出来ないだろう。
先日関係官庁の担当者から「半導体は設備さえあれば、いくらでも造れる、という話を良く聞くが本当でしょうか?」という質問を受けた。私はそれに対して「品物を唯造るくらいなら、それでもつくれるでしょう。しかしそれが売り物になるかどうかは別問題です」と答えた。このやりとりは業界の現状を如実に現すものとして、今も忘れることが出来ない。
半導体は、かっての“鉄は国家である”と言われた程に、現在社会では欠ぐことの出来ない基幹産業になっている。またそればかりではなく、材料比率20%程度の半導体製品は、希有の高付加価値製品である。このような貴重な価値を無為に消失することなく、健全な経済盤の確立に向かって再構築しなければならないと思う。
小回り可能な簡便な生産工程づくりは、人や設備の動きの無駄を取り、工程の進行に必要なもののみにすることによって実現できる。私が大型設備を否定し簡便な小回りの効く設備や工程を求めるのは、設備そのもの大小または好き嫌いの問題ではではなく、大型設備には無駄が多く、その無駄な部分は経営の必要性に従い、コントロール効かないからである。
しかし最近では、このような業界のあり方を根本的に変えるための努力が、真剣に続けられているのを見ることが出来る。それは、非常に地味ではあるが、関係者が英知を集め、創意工夫を凝らして、自らの手で新たなものを創り、またそれは、着実に成果をあげつつある。
その動きは、確実に業界の今日までのあり方を、ここ数年の内に根本的に改革するものである。それは、机上の経営から現地現物に徹した経営への変革であり、その特徴は“経営規模の追求”から、“実質市場先導型”の追求への転換である。
業界の改革は百の議論よりは、このような実際の改革の行動と実績こそ改革の原動力となる。その志のもとに、日夜努力を傾注している関係者へ絶大な期待を寄せている。
以上
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