発行者 岩城生産システム研究所

編集者 IPSインターナショナル
   平成20年7月15日発行 第070号
 ― 目 次 ― 


  
 「自己管理を前提にした経営改革」 岩城生産システム研究所 岩城宏一



 「自己管理を前提にした経営改革」
滑竢髏カ産システム研究所 岩城 宏一



 我々は、生産現場をトヨタ生産方式に変える過程の中で、大きく変化していく人々の働きぶりを、詳細に感じ取ってきている。その結果従来の組織活動とトヨタ生産方式移行後の活動は、根本的に異なることに気付く。
 この変化は、単なる生産現場のみでの事象ではなく、広く普遍的な組織活動に及ぶもので、現在組織の矛盾とそれに置き換わるべき方向を提示している。
 トヨタ生産方式が従来の組織活動と違う点は、“人々は自ら働くことを前提に、今何しなければならないかが自ら解り、そのことが即実行できるように、仕事のための環境が整備されている”ことにある。
 我々は、人々が自発的に働くための条件として、次のような事象を理解する必要があるだろう。即ち、“自らの仕事を直接知ることは、仕事の進行上の上流、下流工程との関係によって始めて可能になり、従来の役職上の上下の関係を通じてではない”こと、また“その実行は、隣接する上下工程の相互関係において成立し、これもまた上下の関係ではない”ことである。
 前回、サボらないように「“人”を管理するのではなく、人が自ら働けるように“仕事”を管理する」と述べた。このことは、具体的には仕事を工程の進行の順番に判りやすく整備し、各自が、自分の上流下流の人の動きを感知しながら仕事を進められるように、仕事を流れ化することにほかならない。
 このことは、トヨタ生産方式における“流れ”、即ち“工程の進行に従い規則的に移動する品物の列”とまったく同様に、仕事の始まりから終わりまで、仕事の進行に従い規則正しく、関係者が連携していることを意味している。即ち、任務を分かち合った人々が、共通の目標に向かって、一致団結して仕事をしていることを指す。
 さらに補足すると、その相互の関係をより確実に維持していく上で大切なことは、お互いの挙動を事前に察知し合っていることである。このことは、私がしばしば引き合いに出す、夏祭りの、“阿波踊り”や“よさ来い踊り”の連の動きに酷似している。踊り手たちは、お互いの動きを肌で感じながら、一糸乱れず、見事にそろって全体の動きを完成している。
 また、その動き(振り付け)は比較的単純で、それを限りなく繰り返している。 これは、トヨタ生産方式で追求してきた、“流れは短く単純に”“標準作業づくり”と“生産の平準化”と全く同一基軸上にある。全体が連携し一体となる上で、その動きが錯綜することなく、シンプルで分かりやすく、変わることなく継続することの重要性を示唆している。
 会社の一般的な業務のあり方にこのことを移植してみると、先ず現在の集中管理に重きを置いた経営では、管理者の関心は、その仕事の仕方(プロセス)より、人(部下)の管理にあって、前述の仕事(上下工程の関係整備)は、管理の対象外になっていることが多い。このことは当然なことで、仕事の現場にいない管理者が、その場で適切な情報を察知し、部下に指示することは不可能である。通常は仕事についての報告を部下にもとめ、改めて指示を出すことで部下を管理しようとしている。
 このようなやり方は、“上司に報告し、より高いレベルの判断を仰ぐ”ということになっている。しかし、それは建て前上のことで、実際は管理者の支配の維持と担当者の責任回避程度の効用にとどまり、業務の遂行上での実質的な効果は期待出来ない。また、そのようなことに会社中で、多くのエネルギーが費やされ、仕事は二の次になっているのが現実であろう。


(次号に続く)





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