発行者 岩城生産システム研究所

編集者 IPSインターナショナル
   平成20年7月1日発行 第069号
 ― 目 次 ― 


  
 「経営の問題点と改革」 岩城生産システム研究所 岩城宏一



 「経営の問題点と改革」
滑竢髏カ産システム研究所 岩城 宏一



前述のように、大切な改善を目の前にしながら、手さえ触れることが出来ず、ただ傍観するしかない。これはご存知のように、その活動を統括している上司の了解を取り付けないかぎり、担当者間で進めることが出来ない仕組みになっているためである。

 その問題の解決を追及していくと、その会社を支えている、経営マインドや組織と運用等の、経営のあり方そのもの改革の必要性が顕在化してくる。このことが、私が常々問題提起している、「トヨタ生産方式が本当にその会社に根付く為には、経営そのもの改革必要になってくる」に該当するテーマである。

 「目の前の改善を、ただ傍観するしかない」これは如何にも不合理である。このことは皆が同じような思いをもっている。しかし、“それでも仕方がない”と思っている。またそのようなことは、社内では極く日常的で珍しいことではなく、そのことが、社内の活動を停滞させていることも、大勢の人達が感じている。

 では何故これを変えようとしないのだろうか? このような疑問を持つ時、現在の多くの会社組織に内在する深刻な問題を見ることが出来る。その問題は、現在の会社組織と運用は、もはや現在社会では適合できなくなっていることであろう。また、現組織は、そのことに気付きながら、自らの力では変えることさえ出来ない。

 多くの企業において、大勢の人々が殆ど働けていない。恐らく彼等の持っている自らの力の10%も発揮することなく、悶々と一生を終わっている。特に社会的に影響の大きい大企業においては、この傾向が顕著に認められる。この問題は、当然労使双方で認識されている問題であり、この改善のために、いろいろなことが試みられてきている。例えば終身雇用制度に対する議論や、成果主義等々。しかし、いずれも期待通りの成果を上げることなく、現実はしりつぼみになっている。

 我々が、生産現場をトヨタ生産方式に変え、そこで生きいきと働く人々を目にするとき、人々が力一杯働けていない真の原因を知ることが出来る。その基本的な問題は、多くの場合が人々が働かないことを前提に、働かすための対応策を講じられてきていることである。しかし、実際は働く意志が希薄とした個人の問題ではなく、会社の現在の組織と運用方法そのものに、問題があるということである。要は現在の会社組織の中では、人々が働かないのではなく働けないのである。

 その原因は、現在の集中管理を前提にした組織と運用は、そもそも管理の直接の対象は、如何に効率的な仕事をするための“仕事”ではなく、中央または管理者が、管理し支配することを目的にした“人”であるためである。

 現在のこのような組織も、かっては有効に機能していた。それは多くの管理者達が仕事を十分把握した熟練者であった。そのため人を管理することを通じ、部下に仕事を教え支援して、結果的に良い仕事して成果を挙げていた。しかし現在では、そのような熟達した管理者も稀になり、殆ど仕事を知らない人々が、組織を束ねる任に付いてい場合が多く、また現在では企業活動そのものが高度に専門化、分業化している。しかも組織の肥大化に伴い、特定の管理者や管理部署で、全てを管理統括して、人々を意のままにコントロールすること自体、不可能になっているためである。

 このような状況の中で、会社機能を回復する為に、多くの会社が中央での管理統制をさらに強化しようとする。その結果は、仕事の現場では益々動けなくなってくるばかりではなく、管理機能そのものも空回りして、現実は会社中が八方ふさがりになっている。 

 今日では、この中央集中管理に代わる新たな管理体制、即ち管理の対象を“人”から“仕事”に重点を置いた管理体制への移が、多くの企業の今後の重要な課題であると思う。

(次号に続く)





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