発行者 岩城生産システム研究所

編集者 IPSインターナショナル
   平成19年11月15日発行 第054号
 ― 目 次 ― 

   「開発革新活動の取組み(1)」 岩城生産システム研究所 今井 嘉文

  
 「コンサルタントのひとりごと 〜全員参加による経営活動の薦め34」 岩城生産システム研究所 岩城 宏一



 「開発革新活動の取組み(1)」

岩城生産システム研究所  今井 嘉文


.はじめに

 私は、時計産業と自動車産業に関連する技術畑を中心に歩んできた。企業ですごした期間、私は環境と人に恵まれ、企業人として貴重な経験をし学ぶことができたと思っている。特に、トヨタから派遣された経営トップ陣によるトヨタ式経営手法の導入とデンソー式経営手法の導入による革新活動の体験ができたことは貴重であった。私は最初、研究開発に携わり、次に設計、実験評価および主査として新製品の企画業務を担当した。また会社経営の一端として工場運営、品質保証、環境・安全等を担当しマネジメントの勉強と人脈の蓄積を図ることも行った。これらの体験とその時どきに培われた人脈は、現在大変役に立っている。このような経験から開発革新の進め方について述べたい。


.新製品開発の位置づけ

 新製品の開発は、岩城先生もこのコラムで述べておられるように、まず売上の拡大と利益の新たな創出を目論む。会社の継続的な維持と拡大、そして同時に市場における支配力の維持・拡大も企てる。現在、新製品の開発には「つくれば売れる時代から売れるものをつくる時代」のマネジメントが求められている。近年の社会のように、欲しいものは何でも手に入る時代においても、一般のユーザーは更なる心の琴線に響く商品やサービスを求め続けている。そしてそこにはビジネスチャンスが無数に存在するのである。その中で勝ち残るためにはまず、新製品開発のマネジメントの基本と、その実践法を構築し、中期経営計画に基づく戦略的な商品企画力と、企画目標を達成する「やりぬく文化」に裏打ちされた、全員参加による実行力が開発革新活動として発揮されることが必須である。それによりチャンスをつかむことができる。


.開発革新について

 開発革新の進め方としていろいろな切り口があるが、ここでは二つの切り口でとらえることにする。第一に、開発の基本であるマネジメントを主体とした改善活動について、第二に、開発のアウトプットとなる新製品の「品質とコストのつくりこみ」活動について述べる。まず前者の改善活動を整理すると次の2項目に分類することができる。

()a.新製品開発の業務体系の整備
 新製品は会社の中期経営計画に連動して企画され、新製品開発の業務体系のフローに基づいて展開されなければならない。この新製品の企画段階から量産までの展開の節目節目に会議体を設置する。会議は、開発に関係する各部署が所定の報告を行い、報告事項を審議した後、経営トップが次のステップに進むかどうかの決裁を行う。この会議運営の仕組みと、各部署が自律的に参画しそれぞれの役割業務をやりきる仕組みを整備することが重要である。


()―b.標準化による開発効率の改善
 開発効率の改善にあたっては、新製品開発業務体系の仕事の流れを標準化し、技術標準として確立・整備し、さらに維持管理の仕組みをつくらねばならない。生産革新と同様、開発・設計プロセスにも沢山のムダがある。このムダを取り除くことにより時間の短縮を図ることが重要である。技術標準としては「技術管理標準」「設計標準」「試験標準」の整備が必要であり、これが企業の財産となる。この財産が都度蓄積していく仕組みになっていることが大切である。技術標準を有効に活用することにより、開発の効率化を図るのであるから、大事なことは技術標準が日常の中で使いやすく、仕事が滑らかに進むように整備されているかが問われるところである。


次号へつづく



 「コンサルタントのひとりごと」
岩城生産システム研究所 岩城 宏一


全員参加による経営活動の薦め34


 会社目標に向かって前進していく中で、人々の役割が明確になり、またその成果もはっきりしてくる。全員参加の経営では、それを前提に人事労務上の諸施策を展開するため、その展開は判りやすく納得的なものになる。したがって、従来の諸制度を基準として、日常の業務を遂行する中で顕在化している、役割や成果を重視して、個別のニーズに合わせて自在に運用することが出来る。
 従来は、個別の運用は“えこひいき”等の問題を引起しているため、それをさせないために、人事上の諸制度をつくり、それを厳格に運用しようとしてきている。このような形式的な運用は、独善的な人事等の消極的な弊害は避けることは可能であるが、その制度の本来の使命である、人材の育成や組織の活性化等の積極的な効用は消滅し、制度そのものを形骸化する直接の原因になっている。
 制度は、各個人に対しあくまでも個別に行うために、一つの基準を示すもので、その制度を一律的に運用し、個々のニーズを閉じ込めるものであってはならない。このように個別な適応を可能にする大前提は、すでに述べたように人々の業務と成果が、日常の活動の中ではっきりと、客観的に視認出来ていることである。
 例えば、60歳定年等の制度等、中小の企業では弾力的に行われているが、大企業においては、一段と厳格に運用しようとする傾向が見られる。人は、各々人によって体力能力は千差万別であり、また会社が必要とする能力も多種多様である。
 その人が健康で働く意思があるかぎり、仕事の掘り起こしと適材適所の就労は十分可能である。要は、このような状況を無視し、一律的に定年を押し進めるやりかたと、個別のニーズ余すことなく吸い上げ、それを生かす制度の比較の問題である。これは言うまでも無く、後者の制度が優れている。
 もし、定年制度が実質的に無くなれば、雇用の場は一変するであろう。全員参加の経営活動では、何ら特別の労力を払う必要は無く、日常の業務の展開の中で、常に人々の任務と成果が顕在化している。そのため、個別のニーズを余すことなく、吸い上げることができる。したがって、そのための最大の障害が取り除かれているため、制度を改定するだけの問題であろう。
 このように、全員参加の経営活動では、これまでの人事労務制度やその運営の仕方に、大きな変化が求められる。この経営活動では、“個々人の能力や成果が客観的に評価できない”というこれまでの問題が解決するため、本来人事労務の理想とする“個別の必要性を的確に満たす”納得的な制度と運用に回帰することである。
 健全な経営活動においては、営業、開発、生産等会社の全ての活動が人事労務上の諸制度の上に成立している。したがって、この制度如何で経営活動そのものが大きな影響を受け、経営上最も重要な分野である。


以上


■無断複製・転用・販売を禁止します■
Copyright©Iwaki Production Systems Research Ltd. 2005-