発行者 株式会社岩城生産システム研究所

 編集者 有限会社IPSインターナショナル
   平成18年08月15日発行 第024号
 お知らせ

「岩城生産システム研究所NEWS」第24号を発行させていただきます。

今回はソレクトロン茨城・阿久津 様のコラム「観察力の凄さに感動して」及び、弊社・岩城 宏一のコラム「全員参加による経営

活動の薦め4」を掲載させていただきます。

なお、弊社事務所は8月12日(土)より20日(日)までお盆休暇とさせていただきますので、ご了承下さいますようお願い申し

上げます。

                                                                      業務部




「観察力の凄さに感動して」 
ソレクトロン㈱ 茨城ソリューションズカンパニー 製造部 阿久津 利三 様

 私が、現在の製造部へ異動する前のTPSを推進する立場にいた時のことであった。 今でも脳裏に焼き付いているのが、

あの時の「全然仕事になってないね」という岩城先生のコメントである。 あれは、岩城先生がたまたま、スケジュールの関係

で弊社近くを移動された際に、弊社に立ち寄っていただいた時のコメントである。 当時、私自身もトヨタ生産方式にかなり傾注

していた時期で、多少なりとも自分はトヨタ生産方式を実践していると自負していた。 しかし、このコメントにはかなりショックを

受けたことを覚えている。 これが、岩城先生との出会いの始まりである。


 
それは岩城先生が弊社幹部と工場内のメイン通路を懇談しながら歩かれ、ちょうど工場半ばに差し掛かった時のことである。

「ちょっとラインを見せてもらおうか?」といって弊社のラインの中へ数歩入ったかどうかの所でメイン通路へ引き返り「大体分か

りました。」 「全然仕事になってないですね」とのコメント。弊社のラインに視線を向けて何秒もご覧にならないで、当時の弊社

のレベルを瞬時に感じ取ってしまったのである。 当時、私は、この最初に岩城先生が弊社に来られた時のビデオを家に持ち

帰り何度も見た記憶がある。 何度ビデオを見てもその約数秒の一瞬しかラインをご覧にならないでの一言であった。

大変ショッキングであり、また、その観察力の凄さに圧倒された。


 
その後、弊社は岩城先生のご指導を戴くことになった。 当時は、今にして思うと改善の方向を見失っていた状況であった様

に思う。 簡単にいえば目の前の成果を出すことに注力し、それ自体は間違った行為ではないとは思うが、ややもすると部分

最適に陥ってしまい、全体最適とはかけ離れた活動になってしまっていた。  関連書籍等にも、改善のプロセスとして、工程

改善→作業改善→云々・・ などと記されているが、以前は、『なるほど』とは思いつつも、実践では、全体の繋がりを見失って

いた。 結局、本当の意味で工程改善と作業改善の繋がりが理解できていなかった。 それに対し、岩城先生のご指導は、常

に首尾一貫して全ての活動が全体最適方向に向いている。 岩城先生は『流れ』とういう非常にわかりやすい言葉でそれを理解

させてくれた。工場では、モノは何処から何処へ向かって流れるべきか? それには、まず、レイアウトがそれに適応したもので

なければならない。この基礎となるレイアウトの下で工程改善→作業改善が進められなければ、結局、いつかは部分最適止まり

になってしまう。 そして、個々の細部にいたる部分もこの大きな流れに即応したものでなければ、工場全体が自律的に関連し

あう環境にはならない。 今は、当時に比べかなり理解は深まった様に思うが、当時は全くと言っていいほど意識などしていなか

った。岩城先生の冒頭のコメントは、当時、弊社が大きな流れができていない点を瞬時にその観察力の鋭さで、診断されたもの

に他ならない。


 
先生の観察力の鋭さにまつわる経験は、大きな流れに限らず他にもある。 私の担当していたラインで、先生にからくり設備

について説明をしていた時のことですが、私が説明している最中、先生の視線は明らかに隣の作業者に向いていた。私の説明

が終わるやいなや、作業者に対し「あなたの動作はいいね」とおっしゃった。 実は、当時、私にもある想いがあった。 お褒め戴

いた作業者の作業は、比較的動作が小さく、速く、かつ、スムーズなため、逆に不思議なくらい目立たない静かな作業になって

いた。

当時、多くの方がラインを見に来られてはいたが、大半の方の関心は、どちらかといえば迫力のあるテキパキとした作業をする

作業者に向けられていた。 もし、この静かな作業に着目した方がいるならば、かなりの眼力の持ち主ではないかと、私は自分

なりの指標の一つにしていたことを覚えている。そんな中、ある時、私がからくり設備の説明をしている合間にも関わらず、瞬時

に着目されたのが岩城先生であったことは前述の通りである。 こんな小さなところにも瞬時に観察できる岩城先生の観察力に、

私は感銘を覚えた。 そして「さすがは岩城先生」と思わず言葉を発せずにはいられなかったことを今でも良く覚えている。


 以上、岩城先生との出来事をあげたが、いつの日か、私も岩城先生のこの様な観察力に少しでも近づけたらと思い、日々改善

に取り組んでいる。

                                                                      以上




「コンサルタントのひとりごと」
㈱岩城生産システム研究所  岩城 宏一
 全員参加による経営活動の薦め4


2、トヨタ生産方式に底流する経営思想 - 2


 
生産現場は会社全体の一連の組織と運用の中にある為、両者はまったく同質的な発想と行動様式を持っているのが普通

である 。従って、これまでの生産現場をトヨタ生産方式に変えたように、会社全体の組織や運用方法を改め、仕事の仕方を

変えることによって、職場の活性化とそれに伴う大きな改善成果をもたらすことが可能になる。


 トヨタ生産方式と従来の生産方式とは、組織と運用上どのような違いがあるかを比較して見ると、前者はいわゆる垂直分業

型であるのに対し、後者は水平分業型である。 さらにその運用は、前者が自己管理を前提とし、後者は中央での集中管理

を前提にしている。従ってこれまでの生産工場をトヨタ生産方式に変えることは、“水平分業集中管理”を“垂直分業自己管理”

型に、組織活動の在り方を変えることである。 トヨタ生産方式を導入時の大きな改善成果は、この変更によってもたらされた

ものである。


 わが国の実情を見ると、現実は後者の“水平分業集中管理”型の組織を指向している会社が圧倒的に多い。 しかも、トヨタ

生産方式による生産現場の大きな変化や改善効果を直視しながらも、一般的にはこのような組織や運用の上の問題点に関心

を示すことなく、そのままになっている場合が多い。


 “垂直分業自己管理”を前提とした仕事の進め方は、多くの会社において、部分的には幾度かは必ず経験していることであ

ろう。 しかし、トヨタ生産方式をその企業全体に波及させようとするとき、その適用は、会社組織の部分的なもの、または一時

的なものに留まることなく、会社全体がすっかり変わるまで徹底していくことになる。


 自己管理は“人々は自ら働く”という人間関係があって初めて成立する。 そのような人々によって構成される組織の形は、

決して中央集権的な管理組織にはならない。 集中管理的な組織を残しながらの“垂直分業自己管理”の試みは、所詮一時

的なものに終わってしまう。


 自己管理を前提とした組織とその運用の仕方は、従来のものとは全く違ったものになるため、新な組織づくりと運用が必要で

ある。即ち後述のように、生産現場の組織の骨格を構成する各工程の配置や生産情報の種類や伝達の仕方は、従来の生産

現場における組織や運営方法とは、まったく異なるものである。


 このような違いはその組織を構成し、それを機能させている人々に対する、いわゆる人間観の違いに起因する。 即ち管理

監督しないと働かない人達を束ねるための組織と、管理するまでもなく、自己管理でき自ら働く人達を束ねる組織とは自ずと

違うものになる。


 このように、二つの組織の違いは重要な問題ありながら、この是非について議論することなく極く当たり前のこととして 、多く

の会社が“水平分業集中管理”型の組織を指向している。この現実は、無意識的に性悪説的人間観が潜在する“仕事をさせる

ためには管理が必要”とする考えが、社会的な通念になっている。 性善説的人間観への変革が、実際の組織活動の中では

如何に難しいかを物語っている。


 そのような中で、トヨタ生産方式の全社への展開は“人間は自ら自発的に働く”ことを前提にした“垂直分業自己管理” の組織

に、現在の組織と運用を置き換えていくことになる。

このことは、通常は非常に大きな困難や混乱を伴うものであるが、生産現場のトヨタ生産方式による改革を先行させることにより

全社を対象としたこの改革が、比較的順調に進行して行く。後続の章において、その改革を実際進める上での要点を記述する。

(次号につづく)

                                                                      以上


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