発行者  株式会社岩城生産システム研究所

 編集者  有限会社IPSインターナショナル
   平成17年12月15日発行 010号 
 お知らせ


「岩城生産システム研究所NEWS」第10号を発行させていただきます。

今回は富士通コンポーネント株式会社取締役 手島 正行 様 及び 弊社・岩城宏一のコラムを掲載させていただいております。

早いもので「岩城生産システム研究所NEWS」も今年最後の号となりました。 本年は皆様方には大変お世話になりました。 

来年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。


※なお、誠に勝手ながら
12月29日(木)より1月4日(水)まで、弊社は年末年始休業とさせていただきますのでご了承下さい。



                                                                業務統括部



 『生産革新では会社は蘇らない』 富士通コンポーネント株式会社 
取締役 手島 正行 様


『生産革新だけで会社は蘇りません!』

 
わたしが係わったトヨタ生産方式(TPS)実践のお話をさせて頂くたびに、わたしはこう結びの言葉を始める。


 
『現場が変わると経営が変わる』と説き続ける岩城さんからみれば、異端の説法にちがいない。しかし、多くの方々が

示すなんとも言えない安堵の笑みを私は素直に受け入れることにしている。それは私が経験した3年間のTPS実践の中

で、憐憫に似た思いの中で何度も目にしてきたからだ。


 
結局のところその安堵感は、海しか見えないところには陸地はないと思い込みたがるためであり、港にいる船は安全

だが、それは船が本来造られた目的ではないことを認めたがらないところから来ているのだ。


 
たぶんTPSを導入し始めると、必ずと言って良いほどのステレオタイプな反応に出会うことになる。それは人類のDNA

に刻まれた進化のプロセスそのものに起因していると思いたくなるものだ。環境の急激な変化に適合した生物のみが生

き残ってきた事実が、逆に今の状態が最も環境に適合しているという信念に変わってしまう。多くの経営者から現場のリ

ーダーに至るまでその呪縛に捕らわれる。誰も今の状態が永遠に続くとは思わない。しかし実際に足元の環境がぐらつい

ても、今の自分たちだけは永遠に続くべきだと考える。


 
TPS導入に際して延々と続く導入効果の試算や、現在の環境がいかにTPS導入に向いていないかの際限のない分析

が多くの人々の意識を疲弊させるのである。


 
あるいは、運良く導入にこぎつけても、単なる整理整頓の2Sに留まるか、独自性を発揮するという美名の下で、TPS

に似て非なるシステムを作り上げ、結局従来の殻に留まる例も後をたたない。


 
そして、多くの場合、「TPSはトヨタだからできるので、私たちのビジネスでは成り立たない」というexcuseを共有し安堵

するのである。


 
『人は変わりたくない』のである。『変わらなければいけない』とどんなに自分で理解していても『何もしないで今のまま

が続くのであればそれが一番いい』のである。


 
だから変わらなくても良い理由を探し回るのに必死なのだ。TPS導入の効果を試算し続け、自分の環境の特殊性を

際立たせようと勤めるのである。しかし、個人としての動機付けはどうあれ、ついにその理由が見出せなくなって初めて

人は変わり始める。そこから、本当の意味でのTPS運動がはじまる。『パラダイム』が変わるのである。


 
変化は会議室や社長室からでなく現場からやってくる。 『Just  In Time』と『自働化』それを支える『平準化生産』と

『標準作業』。TPSの世界で自明の効果も、此岸にいる人々に言葉を積み上げて語るのは難しい。言葉は恣意的である。

日本語の虹は7色だが、仏語の虹は5色の如く、住む世界が違えば理解する同じ事象も異なって映るのである。


 
多くの場合、TPSの効果を最初に体感するのは、黙して多くを語らない現場の人々であることに驚く。大量の文献や

会議、長い電話や報告書との徒労の格闘ではなく、実際に現場で起きる変化にこそTPSの本質が隠れている。私たち

は変わろうと努力をしているが、彼らは瞬く間に変わっている。


 
本質はいつもわたしたちの言い訳の中にある。「TPSはトヨタだからできるので、私たちのビジネスでは成り立たない」

という言い訳の中にある。


 
『トヨタだからできる』は『トヨタのやり方は間違っていない』ということだ。だからあとはパラダイム(視点)をかえてみる。

『私たちのビジネスでは成り立たない』ではなく、『わたしたちのビジネスにも成り立たせよう』だ。変わろうと努力するの

ではなく、変わることだ。


 このパラダイム(視点)の転換こそTPSの本質である。『あるべき姿』を描いたら、あとはそれに向かって行動する。真因

をつかんで克服する。『あるべき姿』と『行動計画』がわたしの係わったTPS実践の全てであり、7つの習慣で言う『主体性

を発揮する』『目的をもって始める』『重要事項を優先する』の3つの習慣と重なりあうのである。


 
今、業種を超えて多くの企業が『生産革新』の名のもとにTPSに取り組んでいるが、多くが躊躇し挫折し呻吟している。


 
『生産革新だけで会社は蘇りません!』


 
わたしが係わったTPS実践のお話をさせて頂くたびに、わたしはこう結びの言葉を始める。多くの方々が示すなんとも言

えない安堵の笑みを私は素直に受け入れてから、こう付け加える。


 
『生産革新とは、結局のところ意識改革なんです。』


 
安堵の微笑みを浮かべた多くの人々が今度は大きく頷くのである。しかし、その表情の中で、本当に意識改革が必要な

のは今頷いたご本人なのだということを、ほとんどの方が気づいていらっしゃらないのである。



                                                                    以上


 コラム「コンサルタントのひとり言」  岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

 
― 生産の平準化・1 ―


 
生産の平準化は、“ジャスト・イン・タイム” “自働化”と並び、トヨタ生産方式の重要な三本柱であります。すなわち“ジャスト

・イン・タイム”と“自働化”が出来て、はじめて生産の平
準化が可能になり、また生産が平準化されて“ジャスト・イン・タイム”

が、より確実に“自働
”的に(生産管理部門等で管理することなく生産現場が自主的に)行われることになります。

 
これまで述べてきましたように、生産の平準化は、生産現場で日常的に発生している、“今 必要な物がはっきりしないまま

生産している”という、大変な無駄をなくす上での、特効
薬的な効果があります。

 しかし、大概の人たちは生産の平準化の大切を、それ程認識していないようであり、また必要と感じても、そのようなことが

できるとは思っていないようであります。トヨタのよう
に大きな会社は、お客さんを待たすことが出来るので(これは正しくないの

ですが)とか、
販売が平準化しないから等、常に他人事のように様に受け止めているのが普通であります。

 もし毎日同じ物を同じ量、変わることなく生産するならば、生産は極めて容易になり、間接部門の手を煩わすことなく、生産

現場まかせで十分こなすことができるでしょう。 すなわち
生産の大変さやいろいろな無駄の発生は、そのほとんどが毎日の

生産が変わることに、原
因していると言っても過言ではありません。 したがって、生産を振らさないように平準化することに

よって多くの無駄を根絶することが可能になり、平準化は生産活動にとっては大
変重要な問題であると言えます。

 そこで生産を平準化しようとするとき、まず皆さんが考えることは、先に述べたように、お客さんからの注文を平均化すること

でしょう。しかし、もしそのことが可能ならば、工
場で、生産を平準化する必要はなく、ただ注文通りに生産すれば、結果的に

毎日同じように
生産を、繰り返すことが出来ることになります。

 ところが、普通の工場ではなかなか、そのようにはいかないのです。部品の欠品、作業者の欠勤、設備故障等々による

混乱の調整に、てんてこ舞いをしているのが実態であります。

生産を安定化するためには、注文を平均化する前に、まず自分達の工場内部の生産を安定させることが優先するのであり

ます。


 欠品、作業者の欠勤、設備故障等々のため、悪戦苦闘している現場の人達に、これらを解
決して、生産を安定化させると

言っても、“そんなことが出来るのなら、とっくの昔にやって
いる”と反論したくなるでしょう。しかしそれには、大変有効な解決

策と逃げ道があるので
す。 以下それについて述べてみましょう。


 
まず工場内の生産振れは、仕掛品の停滞を発生させます。 そのため仕掛品を停滞させないように、いかにして品物を流し

ていくかを考えればよい。 このことは、言うまでもなくトヨ
タ生産方式での、“流れをつくり、後工程から引く”ことによって見事

に解決できます。 しか
も一つ一つの工程は、必ずその前後の工程によって影響を受けるため、“流れ”は部分的なものでは

なく、品物が移動する全体を通していることが大切であります。 流れの具体的なつくり
方はここでは省略しますが、とにかく

流れをつくり、かんばんを使って生産することによっ
て、品物の停滞は完全になくすことが出来ます。

 残るは、設備故障などの異常時の対応であります。 上述のように流れをつくり、その中で生産するだけでも、これらの異常

は随分減らすことが出来ます。 しかしそれによって完全に
根治出来るわけではなく、必ず設備故障などは起こります。ただし

流れの中で生産すことに
より、異常時のダメージを大きく軽減することが出来るのです。

 
すなわち異常発生時、普通の生産では、その周辺は大変混乱するものですが、トヨタ生産方式ではそのようなときは、全体

の動きが停止し異常が取り除かれると、そのまま正常に復
帰します。 このことは実際の生産においては、異常時の対応を

迅速にし、非常に大切なこと
であります。

 要は生産の平準化は販売が振れるので、その振れを生産工場に持ち込まないための手段であること、またその具体的な

方法は、自らの生産工場内の生産の振れをなくすことが、優先
することを念頭に置き、改善を進めていただきたいと思います。



 さて、いよいよ本年もあと僅かになりました。皆様のお蔭で当社スタッフ一同、無事に
この一年間勤めることができました。

有難うございました。また来年もよろしくお願い申し
上げます。皆様も良い新年をお迎え下さい。



                                                                    以上

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