岩城先生が私どもの工場に来られ、「ものづくりをトヨタ生産方式に変えることにより、お金をかけずに生産性は
1年間で倍になる。4年後には3〜6倍になる。」と言われたのは、約2年半前である。
1年で倍になるなら、騙された積りで1年間は闇雲にやってみようというのが、その時の偽らざる私の気持ちで
あった。
2003年5月、連休明けから先生の指導が始まった。
そして4ヶ月後には工場はすばらしくきれいになり、空きスペースがうまれ、仕掛は半減した。
ある機会に以前の現場と運動開始後の現場の比較ビデオを見たときの衝撃は、今でも新鮮である。整理整頓で
現場がきれいになったことはもちろんだが、画面を横切る人の数が少なくなっている。静かな現場になっていた。
現場の風景が変わっていたのである(今から思うと、まだ不十分すぎる結果ではあったのだが)。私のこれまで30
数年の技術者としての活動は、IE的に実作業を改善すること(マシン・人の単位時間あたりの加工数UP)に終始し、
労働時間の3割強にもおよぶ付帯作業の改善は多少行なってはいたものの、システム的に無くすといった思考・
行動は全くしてこなかった。量と品種の増加によって、現場は煩雑さのみが増し、把握しきれない情報を整理し、
工場を管理するためにはコンピューターに依存しなければならなかった。
物と情報(かんばん)が一緒に流れている自立した工場、かたやコンピューターでの情報整理による管理が無け
れば動かない工場、その差は歴然であった。
また、5〜6人の小さな組立ラインにおいて、一個流し、治工具の置き場、そして人の動きを先生が現場で指導
され、その場で生産性が倍になる光景を何度も目にしている。
ある時、誰がみても手の遅い人がネックになっている3人作業のラインで、先生は、手の早い人を抜き、遅い人と
の2人作業で出来高を1.5倍にしてみせた。人を排除してはならない、人を活かさなければいけないと強い感銘を
受けた。
騙された積りで、まず1年間ひたむきにトヨタ生産方式に取り組んでみようと始めたことではあるが(これは私個人
の思い)、驚きと感動の2年半の活動が、会社を大きく変えると同時に私を大きく変え、思いは信念に変わってきて
いる。
動作と動作、機械と機械、さらにライン化された自動機においてさえ、つなぎでの大きなムダがあり、そして並列的・
管理的になっている会社の組織においても、組織間の連携(つなぎ)には大きなムダを抱えていると思われる。
また、トヨタ生産方式により生産性は大きく改善され、それによって会社の経営指標は間違いなく良くなるが、根底に
流れている思想は、人、物の価値の創生(大事にする心)であり、それによって疲弊した日本の「ものづくり」を再生
するという強い熱意であると思う。
岩城先生のご指導を受け、トヨタ生産方式に巡りあえたことは、当社にとって幸いであったことはもちろん、私にとっ
ても大変幸運であった。
今後、さらに現場、会社が、どのように進化し、改革・変貌していくか、私の進化も含めて大変楽しみにしている。
以上、悪戦苦闘しながらも、変貌を続ける現場からの短い便り。
以上
|