発行者  株式会社岩城生産システム研究所

 編集者  有限会社IPSインターナショナル
   平成17年11月15日発行 008号 
 「『トヨタ生産方式へ脱皮する現場より』 新光電気工業株式会社 
専務取締役 生稲 弘明 様

岩城先生が私どもの工場に来られ、「ものづくりをトヨタ生産方式に変えることにより、お金をかけずに生産性は

1年間で倍になる。4年後には3〜6倍になる。」と言われたのは、約2年半前である。

 
1年で倍になるなら、騙された積りで1年間は闇雲にやってみようというのが、その時の偽らざる私の気持ちで

あった。


 
2003年5月、連休明けから先生の指導が始まった。

 そして4ヶ月後には工場はすばらしくきれいになり、空きスペースがうまれ、仕掛は半減した。

 
ある機会に以前の現場と運動開始後の現場の比較ビデオを見たときの衝撃は、今でも新鮮である。整理整頓で

現場がきれいになったことはもちろんだが、画面を横切る人の数が少なくなっている。静かな現場になっていた。

現場の風景が変わっていたのである(今から思うと、まだ不十分すぎる結果ではあったのだが)。私のこれまで30

数年の技術者としての活動は、IE的に実作業を改善すること(マシン・人の単位時間あたりの加工数UP)に終始し、

労働時間の3割強にもおよぶ付帯作業の改善は多少行なってはいたものの、システム的に無くすといった思考・

行動は全くしてこなかった。量と品種の増加によって、現場は煩雑さのみが増し、把握しきれない情報を整理し、

工場を管理するためにはコンピューターに依存しなければならなかった。

 
物と情報(かんばん)が一緒に流れている自立した工場、かたやコンピューターでの情報整理による管理が無け

れば動かない工場、その差は歴然であった。


 
また、5〜6人の小さな組立ラインにおいて、一個流し、治工具の置き場、そして人の動きを先生が現場で指導

され、その場で生産性が倍になる光景を何度も目にしている。

 
ある時、誰がみても手の遅い人がネックになっている3人作業のラインで、先生は、手の早い人を抜き、遅い人と

の2人作業で出来高を1.5倍にしてみせた。人を排除してはならない、人を活かさなければいけないと強い感銘を

受けた。

 
騙された積りで、まず1年間ひたむきにトヨタ生産方式に取り組んでみようと始めたことではあるが(これは私個人

の思い)、驚きと感動の2年半の活動が、会社を大きく変えると同時に私を大きく変え、思いは信念に変わってきて

いる。

 
動作と動作、機械と機械、さらにライン化された自動機においてさえ、つなぎでの大きなムダがあり、そして並列的・

管理的になっている会社の組織においても、組織間の連携(つなぎ)には大きなムダを抱えていると思われる。

また、トヨタ生産方式により生産性は大きく改善され、それによって会社の経営指標は間違いなく良くなるが、根底に

流れている思想は、人、物の価値の創生(大事にする心)であり、それによって疲弊した日本の「ものづくり」を再生

するという強い熱意であると思う。

 
岩城先生のご指導を受け、トヨタ生産方式に巡りあえたことは、当社にとって幸いであったことはもちろん、私にとっ

ても大変幸運であった。

 
今後、さらに現場、会社が、どのように進化し、改革・変貌していくか、私の進化も含めて大変楽しみにしている。

以上、悪戦苦闘しながらも、変貌を続ける現場からの短い便り。



                                                                    以上


 コラム「コンサルタントのひとり言」  岩城生産システム研究所
代表取締役 岩城 宏一

 
― 無駄もいろいろ・5 ―


設備を停めるな−3


 先の号で「」に対する時間の限定の仕方が、トヨタ生産方式と従来の生産方式では、大変大きな違いがある

ことを述べました。すなわち普通の生産方式では、“今必要なもの”という場合の“”の時間の長さは必ずしも

はっきりしていず、大概は緊急時でも今日中、普通は2、3日以内または今月以内といった程度であります。


 それに対しトヨタ生産方式では、“今必要なもの”の 時間の長さは、例えば今から10分以内等、はっきりと決ま

っており、しかもその時間は短いのが普通である。


 では「」という時間は、両者の間ではどのような仕組みによって、設定されているのかを、検証してみましょう。

まず通常の生産方式での生産計画は、ご存知のように大概は日々の生産日程計画によって、各生産現場に

示されています。これらの計画は1日単位になっているため、計画上は“”必要なものは、今日一日ということ

になります。しかし実際の仕事となると事情は一変します。


 それは、部品が揃わない、欠勤で人が揃わない、設備が故障し動かない、等々の理由で、生産現場は計画通り

には、決して動いていないのが常であります。普通は次のような二つの生産の仕方をしています。一つは、「とに

かく部品が揃い、生産の出来るものから生産をしておこう」という類のもの。

もう一つは、今日の出荷の関係で生産管理部門などからの指示による「特急生産」。


 前者 は“”に対し、 はっきりした時間の限定がないままの生産であり、後者は、“特急”なるが故に、他の生産

中のものを押し退けながら走るため、そのたびに生産現場に混乱を引き起しているのが普通であります。さらに

それが原因で、他の製品の生産の遅れを助長し、また挽回のため“特急便”を走らすといった、悪循環を繰り返し

ているのが実情であります。


 このように、普通の生産の仕方においては、“”を定常的に限定する時間の観念はなく、各生産現場が勝手に

自分の都合に従い生産しており、その中を生産管理部門による“特急便”を走らすことによって、四苦八苦しながら

日々のデリバリーを、追いかけているのが現状です。


 一方トヨタ生産方式では、このような問題がどのような形に、置き換えられているのでしょうか?

この点については次号で取り上げてみましょう。




                                                                    以上

■無断複製・転用・販売を禁止します■
Copyright © Iwaki Production Systems Research Ltd. 2005-